貪欲に「なぜ」と問い続けた先にあるもの

 一方で「顧客の声を聞きすぎてはいけない説」があります。これは、ユーザーの声を聞き入れすぎてサービスが複雑化し、本来の方向性とズレてしまうことを懸念しています。

 LayerXでは「裏のニーズ」と言っているのですが、ユーザーの声を聞くことは絶対。ただし、言うとおりそのままにはつくらないポリシーがあります。

 例えば、「申請を逆順にソートできる機能がほしいと言われたとします。ここでLayerXでは「その機能で何をしたいのか」という「裏のニーズ」を探ります。ヒアリングを重ねていくと「ソートがしたい」わけではなく「稟議(りんぎ)書の抜け漏れをなくすための検索機能として欲しい」という「裏のニーズ」を探り当てます。そこまで分かれば、申請の抜け漏れそのものをなくす機能をつくればよく、実装すべきはソート機能ではありません。そうすれば、他のユーザーの要望としては別だけれど、本質的には同じ「裏のニーズ」にも応えることができます。

 かのトヨタ自動車では、社内カルチャーとして「トヨタ式5W1H思考」があり、「なぜ」を繰り返して真因を探る考え方が定着しています。この考え方は、ソフトウエアにも当てはまります。ユーザーの声を聞くことと言いなりになることは相反します。私たちが担うのは、要望の裏に隠されたニーズを読み取り、その解決策をサービスに落とし込んでいく役割なのです。ちなみに、私は「裏のニーズ」という言葉が気に入っています。「その機能をほしい理由はなぜですか?」という言葉をかけるだけで「ちなみに……」といった意見を引き出せて、一気に生産性が上がります。

 100社以上にヒアリングする過程では、どうしても構造を変えたがらない企業に出合うこともあるでしょう。だからといって「変わらない人たちが悪い」と嘆くのは少し違います。

 先ほど、サービスは強い信念のもとでスタートさせたほうがいいと話しました。ところが、信念はエゴに変換されやすかったりします。信念はニュートラル、エゴは信念から離れてしまった他責。だからエゴ寄りの考えになると「変わらない人たちが悪い」と他責になるのです。

 LayerXには短期的な売上至上主義に走らず、仲間や社会から信頼を得られる行動を推奨する「徳」という行動指針があります。おかげで「なぜ使ってもらえないのだろう」「だが、こういうアクションにすると改善できるかもしれない」と考え方をうまく変換させるやりとりが社内で活発に行われています。

 ひとくちに「ユーザーと向き合う」といっても、そこでは「貪欲さ」や「泥臭くやり続けられるかどうかの覚悟」が問われます。でも、その先にはユーザーと私たちつくり手にとってのメリットが必ずある。今回は、それをお伝えしたかったのです。

この記事はシリーズ「福島良典の「新時代の現場主義」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。