BtoB事業における、MVPとMSPのギャップ

 サービスづくりでは「MVP(Minimum Viable Product)」「MSP(Minimum Sellable Product)」という考えがあります。ユーザーがサービス体験で最小の価値を感じるのがMVP、購買してくれる最小の価値がMSPです。

 BtoC(消費者向け)であればユーザーは基本的に無料で使うわけなので、MVPとMSPはあまり変わりません。ですがBtoBではサービスは有料であるケースが多いので、MVPだけでは「便利だけれど、お金を払うほどの価値はない」とシビアに判断されることもあるわけです。

 かくいうLayerXも、最初からMVPとMSPのギャップをつかめていたわけではありません。

 バクラク請求書(当時のサービス名はLayerX インボイス)は2021年1月にリリースしたサービスですが、当初は3月ごろのリリースを予定していました。当時はまだ競争が激しい領域ではなかったため、もう少しじっくりやろうと考えていたのです。そうすると、事業責任者の牧迫(寛之/執行役員)が「3月まで待つ必要はない」「早くリリースして、フィードバックを多くもらったほうがいい」と宣言。そして、リリースを早めることにしました。

 このときの判断がバクラク史上最もいい意思決定になりました。

 リリース前までは知り合いに紹介してもらった企業をメインに商談を進めていました。前倒しでリリースしたことで、LayerXという社名すら聞いたことがないという方々のリアルな声が集まり始め、認識がガラリと変わったのです。

 そもそも請求書は経理だけでなく他部署の人たちも関連する業務です。そういったワークフローをカバーできないのであれば導入できないというフィードバックが半数以上集まりました。ワークフローの存在は知っていましたが、それがサービスに含まれていないと導入できないことは新たな視点でした。

 おかげで、リリース後の数カ月は「比較した上で、他社のサービスを導入しました」といった感想が多く寄せられ、悔しい思いをしていました(苦笑)。こういったフィードバックがなければ、今のバクラクは存在しませんでした。

 バクラクはAI-OCRという技術を使って、アップロードされた請求書を自動で読み取り、目視確認や手入力を限りなく減らせるというサービス体験が注目を集めていました。つまりMVPは達成していた。しかし、これだけではお金を払ってまで導入したいサービスにはなれていなかったため、MSPは達成できていない状態でした。ID管理や会計システムとの連携、仕訳学習機能など、地味だけどユーザーが「お金を払ってでも使いたい」と思う機能を細かく積み上げていく必要があったのです。

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