「きちんと挨拶する」も百人百様

「曖昧な言葉」の反対は? もちろん「具体的な言葉」です。

 相手の意識ではなく、「行動そのもの」にフォーカスし、その行動をコントロールしてミスの発生を抑えるためには、指示の言葉も「行動」を示している必要があります。これが、ここでいう「具体的な言葉」です。

 では、「行動」とは何でしょう?
 行動科学マネジメントには「MORSの法則(具体性の法則)」という、次の4つの要素から成り立つ「行動と呼べるものの定義」があります。

[行動の4定義]
・Measured(計測できる)=どのくらいやっているかを数えられる(数値化できる) 
・Observable(観察できる)=誰が見ても、どんな行動かがわかる
・Reliable(信頼できる)=誰が見ても、同じ行動だとわかる
・Specific(明確化されている)=誰が見ても、何を、どうしているかが明確である

 これら4つの要素がそろって、初めて具体的な言葉で表された「行動」となります。逆にいえば、この4つの条件を満たしていないものは「行動」ではないということです。

「売上目標を達成する」「朝早くから業務に取り組む」「残業する」「顧客目線で考える」「懇切丁寧に説明する」「きちんと挨拶をする」……。
 ビジネスの現場でよく使われるこれらの言葉は、行動科学の世界においては、すべて行動と呼ぶことはできません。

 たとえば「きちんと挨拶をする」という言葉は、普段の私たちの会話のレベルで判断すると「行動」と感じられるかもしれませんが、MORSの法則に照らせば行動とは呼べません。
 何をもって「きちんと」なのかが、明確な判断基準のない、主観的なものだからです。

「笑顔をつくり」
「5メートル先の相手にも聞こえるような声で」
「『おはようございます』と」
「頭を下げながらいい」
「頭を上げて再度相手の顔を見る」

 もちろんこれは一例ですが、「きちんとした挨拶」をさせるには、このくらいまで具体的な指示として伝えなければ、相手によって解釈が変わってしまうのです。

「スローガン」はその先の話

「安全意識をしっかり持つ」。こうした「スローガン」が多用されることは、ミスを無くすマネジメントにおいて、大きな障害となっています。

 私の会社のインストラクターが研修に入ったある現場では、こんな言葉をスローガンとして掲げようとしていました。
「意志のある確認を徹底する」

 もうおわかりでしょう。曖昧な言葉だけで成り立っているようなものです。しかし、これと同じことが多くのビジネス現場で起こっているはずです。

 スローガンのさらに厄介なところは、その言葉自体が「間違っていない」ということです。

 しかし、いざ「意志のある確認を徹底しよう」と思っても、どんな行動を取ればいいのかがわかりません。
 その結果、無意味な軋轢(あつれき)が職場内で生まれるのです。

「経験値、知識量、価値観は人それぞれ違う」
「言葉の解釈は人によって違う」
 だからこそ、「行動の指示」と呼べる具体的な言葉を定めて使用しなければなりません。
 スローガンを考えるのは、具体的な行動を示す言葉を定めた後の話です。

「相手の意識ではなく、行動そのものにフォーカスして、具体的な行動を示す言葉で伝える」。これを実践することでミスの発生を抑えることができます。まずはここから実践してみてください。



シリーズ累計40万部超のロングセラー『教える技術』の著者で、行動科学マネジメントの第一人者が、職場からミスを無くす科学的方法論を豊富な事例と共に解説。

部下の“不始末"に日々アタマの痛い全リーダーの必読書。もちろん「自分のミス」を無くしたい人にもおすすめ!

石田淳(著) 日本経済新聞出版 1650円(税込み)

この記事はシリーズ「行動科学で解明 無くならないミスの無くし方」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。