上司の常識は部下の非常識
「指示が曖昧で、どう行動すればいいかわからない」
実は、これが職場でミスや事故が発生する、もっとも大きな背景の1つです。
たとえば、こんな話があります。
あるホテルの宴会担当部署が、その日に行われる宴会の準備をしていました。その際、年配のベテラン社員が20代の新人社員に、こう指示を出しました。
「何本か、瓶ビールの栓を抜いて準備しておくように」
この指示のどこに曖昧さがあるか、おわかりですか。
「何本か」という言い方が、まず曖昧です。「準備をしておく」というのも、どう準備すればいいのかわかりません。テーブルの上に並べておくのか、それともケースに入れておけばいいのか。
「そんなことは自分で判断するべきだ」という意見もあるでしょうが、ミスの無い行動をさせるには、相手の判断や考えに任せるわけにはいきません。
ミスや事故を無くし、人間の行動原理に合った仕組みをつくるためには、何よりも曖昧さを排除し、具体性のある言葉を使うことが重要です。
実はこの指示には、ミスの原因となる最大の曖昧さがあります。
それは「栓を抜く」という言葉です。
「そんなことは当たり前だろう」と思った方は、栓抜きを使って瓶の栓を抜くことを知っている方です。
ところが今の20代の若者には、瓶の栓を抜くという行動をしたことがない人が大勢います。それどころか、彼ら彼女らは「栓抜き」の存在も、その使い方も知らないことが多いのです。
多くのミスは「曖昧な指示」から生まれる
「栓抜きを使って瓶の栓を抜く」ことを知らない人にとって、「栓を抜いておいて」という指示はきわめて具体性のないものになります。
1つの言葉を解釈するとき、人は自分の過去の経験や知識にひもづけようとします。
だからこそ、経験値も知識量も違う相手に対して言葉を伝えるときには注意が必要です。
結局、栓を抜くことを知らなかった新人社員は、ビール瓶の栓を力ずくで開けようとし、手をケガしてしまいました。
これは、あるホテルで起こった実話です。
もちろん経験値、知識量は年配層が多く持っていて、若年層が少ないという図式ではありません。
たとえば、若手社員が「ミーティングの資料はグーグルドキュメントにアップしてありますので、そちらをご覧ください」と伝えても、グーグルドキュメントの存在を知らない、利用した経験もない年配層には、何のことかわかりません。
こうした曖昧な言葉から、「しっかり報告をしろ」「いや、レポートを上げたじゃないですか」というトラブル(事故)も発生するわけです。

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