冷徹な判断が、情の厚い意思決定になる

 時間の経過とともに楽観的予測は見事に崩れ、劇的に業績が回復するといったミラクルが起こるケースはほとんどない。むしろ最悪の事態に陥るのが常だ。

 3年前であれば、その事業や拠点を引き取ってくれる他の会社が現れたかもしれない。自社のビジネスモデルにおいてはノンコアになったが、他社の傘下に入れば、その会社の事業とシナジーを創出して成長していける。
 私も数多くの企業再生を手がけてきたが、そんなパターンが大半である。

 だがリーダーが決断を遅らせれば、3年後には業績はボロボロになる。こうなると、もう買収に手を挙げる会社も現れない。結局は、その事業や拠点に関わる全員が職を失うことになる。
 3年前に撤収を決断すれば、冷徹なリーダーと非難されたかもしれない。だが、中途半端に情の厚い意思決定ほど、非情な結果を招く。
 つまり、自分たちの仲間の人生を本気で慮(おもんぱか)っているのであれば、実は冷徹な判断こそが、真の意味で情の厚い意思決定になるのである。

 その好例が、2015年に飲料事業から撤退した日本たばこ産業(JT)だ。

 自動販売機事業はサントリーグループに買収されたが、この時点ではまだ黒字の事業だった。だが当時のJT経営陣は、自社内に存在する限りは将来性が見込めないと判断した。
 結果的には飲料大手のサントリーに引き取られたことでシナジーを創出し、競争力を回復できたのである。

 中途半端な情けは、全員を不幸にする。非情と言われようとも、リーダーは冷徹に判断できなければいけない。

乱世の今こそ、古典に学べ!

 多くのリーダーが座右の書として挙げるマキャベリの『君主論』。そのエッセンスを現代のビジネスに当てはめつつ、解説するのが本書だ。きれいごとではすまされない再生・改革の修羅場をくぐり抜けてきた2人が、その経験をもとにリアルに語る。

冨山和彦、木村尚敬(著) 日経BP 1760円(税込み)

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