「資産運用」の世界でも同じことが起きている 

 軍事問題を専門とする歴史家サミュエル・エリオット・モリソン提督が、『戦略と妥協』で同様の指摘をしている。
「戦争でミスは避けられない。軍事的決定を行う際には、敵の戦力と計画を推定するが、それは間違うことも多い。よく考え抜かれた作戦も決して完璧ではなく、しばしばあまりうまくいかない」。
「戦争では他の条件が等しければ、戦略上のミスを最少にする側が勝つ」。
 つまり、戦争は究極の「敗者のゲーム」なのだ。

 もう一つの例がゴルフだ。トミー・アーマーは『ベスト・ゴルフ』の中でこう述べている。
「勝つための最善の方法は、ミスショットをできるだけ少なくすること」。
 これにはすべての週末ゴルファーが頷くことだろう。

「勝者のゲーム」は、絶対的勝利に惹かれるプレーヤーが集まりすぎるために、しばしば自己崩壊する。それはゴールド・ラッシュの惨めな結末にも現れている。

 同じように、資産運用と呼ばれる「マネーゲーム」も、最近数十年で「勝者のゲーム」から「敗者のゲーム」へと変わった。証券運用の世界で根本的な変化が起きたからだ。

 市場より高い成果をあげようと懸命に努力する機関投資家が多数現れ、市場を支配するようになった。この変化がすべての原因である。全員が同じ情報を共有し、巨大なコンピュータを駆使し、市場に勝とうとして全力をあげる。

 今やアクティブな運用機関は、初めて市場に顔を出す金融機関やアマチュアと競争しているわけではない。彼らは他の優秀な専門家と「敗者のゲーム」を戦い、そこで勝ち残る秘訣は、相手より失点をできるだけ少なくすることなのだ。

 プロのファンド・マネジャーがきわめて優秀であるからこそ、個々のマネジャーは彼らの総体である市場に勝つことができない、ということだ。



 機関投資家の伸長やビッグデータの活用などにより、市場に勝つことはますます難しくなった。私たちは「敗者のゲーム」に参加しているわけだ。では、「敗者のゲーム」を「勝者のゲーム」に変えるにはどうすればいいのか? 
 投資の本質が手にとるようにわかる、世界100万部の超ロングセラー。

チャールズ・エリス(著) 鹿毛雄二+鹿毛房子(訳) 日本経済新聞出版 2200円(税込み)

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