失敗を生かす、蒸留・抽出する、共感する

 私が知るモダンエルダーのほとんどは50歳を超えていて、次に書くようにその知恵を示してくれている。

1 優れた判断力

 過去にさまざまなものを見たり経験したりすればするほど、次々とやってくる問題に上手(うま)く対処できるようになる。年をとればとるほど、人は「環境の達人」つまり自分が活躍できる環境を作り出したり選んだりする能力に長(た)けてくる。

 (米国の俳優で社会評論家としても著名な)ウィル・ロジャースは「優れた判断力は経験の賜物(たまもの)で、その多くは過去の判断の失敗から生まれる」と言っている。昔私が膝を擦りむいた経験があるから、今のあなたが転んで膝を擦りむかないように助けることができる。モダンエルダーは、長年培った知恵に基づいて長期的に物事を見ることができる。今の若者が激流を下ろうとするとき、流れのどこに目に見えない岩があるかを警告してくれる経験者の導きには、大きな価値がある。

2 本物の洞察

 経験によって得られる大切な資産のひとつが、物事をはっきりと見通す力、つまり直感的な洞察だ。モダンエルダーは、採用面接にしろ戦略議論にしろ、雑多な情報の中から注意を向けるべき根源的な課題をとっさに見分けることができる。この瞬時の編集能力が年長者にある種の重みを与え、誰もがその人の次の言葉にじっと耳を傾けるようになる。

 しかも年長者の多くは誰かに感心してもらおうともしないし自分を証明する必要もないので、賢い年長者の観察眼には飾らずとも洗練された本物らしさがある。若い時代は「生」の材料を刈り取り蓄積する時だが、そうした材料を蒸留して最高の味と香りを抽出し、それらを混ぜ合わせて完璧に練り上げられた食事にするのが年長期だ。

3 心の知能指数(EQ)

 知恵とはただあなたの口から出てくるものではなく、あなたの耳と心で聞いたことをもとにあなたが理解しているものだ。幸福は感謝と同義語だとTEDで語り伝説になった92歳のデイビッド・スタインドル・ラスト修道士は私にこう教えてくれた。

 「年長者がまずやらなくちゃならないことは、純粋な興味を持って若い人たちの話に耳を傾けることだと私は思う。私たちがどれだけ与えられるかは、どれだけ真剣に聞いているかにかかっている」。

 ことわざにもあるように、「知識は語るが知恵は聞く」ということだ。モダンエルダーとは、自分の気持ちに敏感で、忍耐強く相手の感情を読み取ることのできる人物だ。つまり、自分自身の感情を理解して抑制できるし、他者の気持ちにも共感できる。

 私はエアビーアンドビーで働いている時にヒュー・バリーマンという21歳の社員から最大級の褒め言葉をもらった。

 「それぞれの世代がどんな風に物事を考えるかっていうと、昔のラジオのたとえがぴったりくる。比喩的な意味でも文字通りの意味でも、若い人たちはひとつの周波数だけに合わせてる。でも歳を重ねるごとに、チャンネルを回してほかの周波数にもすぐに合わせられるようになる。チップ、あなたはどんな周波数にでも合わせられる共感力がありますよね」

(写真:Monkey Business Images/shutterstock.com)
(写真:Monkey Business Images/shutterstock.com)

次ページ 物事をはっきりと見通す、前向きな影響を与える