キーエンスの快進撃が止まらない。4月27日に発表した2022年3月期連結決算では過去最高の売上高を更新し、営業利益率は55%に達した。株式時価総額は12兆円を超え、トヨタ自動車、ソニーグループ、NTTに次ぐ国内4位につけている。従業員の平均年収(2021年3月期)は1751万円と、高年収企業の代表格である総合商社も上回る。

 キーエンスが日本を代表する高収益企業であり続けられるのはなぜか。理由は、独自の育成手法を通じて鍛えられた一人ひとりの社員にある。日経ビジネスLIVEではキーエンスの「強さの根源」を解き明かすため、3人の同社OBを講師に招いたウェビナーシリーズ(全3回)を開催した。6月16日の第3回に登壇したのは、米国や英国の現地法人立ち上げなどに携わりキーエンスの海外展開を主導した、インサイトアカデミー(東京・港)の藤田孝顧問。「『キーエンス流』は世界に通じる、海外事業開拓の極意」をテーマに講演していただいた。収録したアーカイブ動画とともにお伝えする。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

 西岡杏・日経ビジネス記者(以下、西岡):本日は「キーエンスOBが明かす強さの根源」シリーズの第3弾として、「『キーエンス流』は世界に通じる、海外事業開拓の極意」をテーマに、インサイトアカデミー顧問の藤田孝さんにご講演いただきます。藤田さん、よろしくお願いします。

 藤田孝・インサイトアカデミー顧問(以下、藤田氏):皆さん、こんばんは。私は2015年に60歳でキーエンスを退職しました。今回のセミナーのお話をいただいたとき、久しぶりにキーエンスの22年3月期の決算情報を見たのですが、連結売上高が7551億円で営業利益は4180億円、売上高営業利益率は55%でした。海外売上高は4449億円で、6割近くを海外の売り上げが占めているようです。

 本日は、キーエンスの海外事業の歴史を振り返り、私が経験した中から皆さんのお役に立てられる情報を選んで、お届けしたいと思います。

 私は1982年にキーエンスに入社しました。このときは設立から8年目で、売上高は10億円強の規模でした。私が海外事業に携わったのは85年。米国に現地法人を立ち上げ、北米市場の開拓を本格的に始めるタイミングでした。93年には英国に渡り、英国現地法人を立ち上げ、欧州市場を開拓。98年からは海外事業部長として、海外の直販ネットワークを構築する仕事をしていました。当時から「海外シェア5割」を目指すように言われておりまして、この目標を念頭に頑張ってきました。2015年に60歳を迎えて退任し、それ以降は、グローバル人材を育成する事業を展開する「インサイトアカデミー」の顧問を務めています。

キーエンスの強さは、強固な企業文化

藤田氏:キーエンスのビジネスモデルを私なりにまとめると、この4つのピースになります(図1)。

図1
図1
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 まず、右上の「高付加価値商品開発」。これを企画、開発して、顧客に「直販・コンサル提案営業」で届けます。これらを両輪にしながら、「ファブレス即納」で顧客の要望に応える。こうして、次もキーエンスを選んでいただけるようなサイクルをつくっていくのが、基本のビジネスモデルです。

 これは、当時は非常に新しい考え方でしたが、今は提案型営業をしたり、付加価値の高いマーケットイン型の商品を提供したり、あるいはファブレスで即納していたりといった手法は一般的になりつつあります。その中でも、他社ではまねできないものは何かと言いますと、図1の右下にある「付加価値最大化を実現する強固な企業文化」です。これが、キーエンスの強さの根源だと思います。このビジネスモデルは国内でも海外でも同じように展開されており、いずれも売上高営業利益率5割を実現しています。

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