キーエンスの快進撃が止まらない。4月27日に発表した2022年3月期連結決算では過去最高の売上高を更新し、営業利益率は55%に達した。株式時価総額は12兆円を超え、トヨタ自動車、ソニーグループ、NTTに次ぐ国内4位につけている。従業員の平均年収(2021年3月期)は1751万円と、高年収企業の代表格である総合商社も上回る。

 キーエンスが日本を代表する高収益企業であり続けられるのはなぜか。理由は、独自の育成手法を通じて鍛えられた一人ひとりの社員にある。

 日経ビジネスLIVEではキーエンスの「強さの根源」を解き明かすため、3人の同社OBを講師に招いたウェビナーシリーズ(全3回)を開催した。5月19日の第1回に登壇したのは、FAプロダクツの天野眞也代表取締役会長。キーエンスへ1992年に入社し、20年近くに及んだ在籍期間で社長直轄プロジェクトなどを複数率いた「営業」のプロだ。「顧客の心をつかむ、キーエンスの『営業しない』営業力」をテーマにした講演を、アーカイブ動画とともにお伝えする。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

上阪欣史・日経ビジネス副編集長(以下、上阪):本日は「キーエンスOBが明かす『強さの根源』」シリーズの第1回として、「顧客の心をつかむ、キーエンスの『営業しない』営業力」をテーマに、FAプロダクツ代表取締役会長の天野眞也さんにご講演いただきます。天野さん、本日はよろしくお願いいたします。

天野眞也・FAプロダクツ代表取締役会長(以下、天野氏):天野眞也と申します。現在は、ご紹介にもあずかりました株式会社FAプロダクツの代表取締役会長、およびTeam Cross FA(チームクロスエフエー)というコンソーシアム(共同事業体)のプロデュース統括を拝命しています。

 僕がキーエンスに入ったのは1992年。従業員数二百数十名という非常に規模が小さいときでした。それから約19年間勤めていたわけですけれども、驚異的に成長する中でどんな営業をしていたのかというお話を、今日はしっかりと皆さんにお伝えしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

おいしいハンバーグでも食べたくないときはある

天野氏:まず、「営業しない営業とは、どんな営業でしょうか」ということを、ちょっとだけ考えていただきたいんです。サボりがうまい営業のこと? 訪問しない営業のこと? もちろん、いずれも違います。この問いは、そもそも営業の役割とは何かを考えると分かっていただけるのではないかと思います。

 では、営業の役割をハンバーグに例えて説明します。

図1
図1
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 図1においしそうなハンバーグが映っています。ケース1番、皆さんが「このハンバーグ、おいしいよ!」と勧めたとします。ところが相手は、「食べたばっかりだから、いらないよ」と言いました。おいしそうなハンバーグだからといって、食事をしたばかりの人に勧めても、食べるわけがないですよね。

 では、ケース2番です。今度は「このハンバーグ、昨日食べたものよりおいしいよ!」と言いました。すると、相手は「昨日もハンバーグを食べたのに……」という渋い反応です。確かに、食事をしてから少し時間が空いて、おなかは減っているかもしれませんが、2日連続ハンバーグを食べたくはありませんよね。

 どんなにおいしいハンバーグでも、おなかが減っているときで、なおかつ最近ハンバーグを食べていないときしか食べたくないのです。つまり、顧客がやりたいことや解決したい課題と合っていない製品は売れないということです。

 「営業しない営業」とは、お客様が欲しいものと欲しいタイミングを把握しており、適切な時期に提案できる営業。お客様に選ばれる営業なのです。

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