営業利益率55%を誇るキーエンスの強さの原動力が「直接営業」だ。迅速な対応で他社を圧倒し、ニーズを細かく聞き取って商品を開発。顧客のキーマンの異動情報まで共有し、組織を挙げて売り込みをかける。神出鬼没のキーエンス営業担当者の姿に迫る。

■掲載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)驚異の営業利益率55%、時価総額国内3位 キーエンスの強み
(2)キーエンス シェア獲得の武器は神出鬼没の営業パーソン(今回)
(3)キーエンス 1000本ノックで鍛える営業力、囲い込みは「ダサい」
(4)接待飲み厳禁、シャツは白 キーエンスの掟12カ条
(5)工場飛び出し商機発見、ローソンも飛びつくデータ分析ソフト
(6)三菱商事もソフトバンクも尻目 数字が物語る実力
(7)顧客すら知らない価値発見 キーエンスは現代の奇兵隊だ!

エーワン精密は、キーエンスからレーザーマーカーを購入。営業担当者の迅速な対応が決め手となった(写真:北山宏一)
エーワン精密は、キーエンスからレーザーマーカーを購入。営業担当者の迅速な対応が決め手となった(写真:北山宏一)

 「レーザーマーカーを購入されるご予定ですか」

 2021年冬、工作機械用部品を手掛けるエーワン精密の山梨工場でレーザーマーカーが故障した。同社は旋盤などを固定する「コレットチャック」で、国内シェア60%を占める最大手。少量多品種を扱うため、1点ずつ大きさは異なる。小さいもので高さ3センチほど。顧客によって製品の大きさは微妙に異なるため、レーザーマーカーで寸法を印字しなければ部品の判別ができない。

 同社の室田武師専務取締役は既存の生産ラインとの相性を考慮し、これまで通りパナソニック製を再び購入しようと考えていた。ところが声をかけてきたのはキーエンスの営業担当者。まるで、故障を知っていたかのようなタイミングだった。

競合が返事する前に、受注に持ち込む

 種明かしをすれば単純だ。キーエンスの営業担当は室田氏を訪ねる直前、エーワン社内の別部署でレーザーマーカーの販売を終えていた。その去り際、いつもの習慣でこう尋ねた。「他にお困りの方はいませんか?」。その答えが彼を、隣の建屋に向かわせた。

 それからの動きは早かった。数日後に再び来訪。1分ほどで自らレーザーマーカーを組み立てて、室田氏の目の前でデモを披露した。訓練を積んだ口調で機能を紹介し、質問への返事もよどみない。納得した室田氏はその場で購入を決断した。

 パナソニックに対しては故障直後に連絡し、購入意向も伝えていた。だが同社の営業担当が返事の電話をかけてきたのは、キーエンス製の購入後。パナソニックはみすみす販売機会を逃した。

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