「経済成長ケースでも将来は所得代替率が50%を割ってしまう恐れが大きいのではないか」
2021年11月末、ある年金系シンクタンクが催したオンラインシンポジウムで、厚生労働省の幹部が突然、こう語って関係者を驚かせた。「所得代替率」とはいわば年金の受給水準を表すもの。それが、現役時代の半分を下回る危険性に触れたのだ。

なぜそんな恐れが出てきたのか。実は、政府内ではここ数年、基礎年金の将来的な大幅縮小の懸念が広がってきた。基礎年金が大きく減っていけば、今の高齢者だけでなく、やがて厚生年金を受給する現役ビジネスパーソンまで広く影響が及ぶ。
厚労省は減少後の具体的な年金給付額を示さず、所得代替率の変化しか公表していないため分かりにくいが、社会の中核世代にも重大な問題といえるだろう。
下の図は、それを示したものだ。まず左端は、現在の厚生年金の給付水準。そして中央が、このまま行くと給付水準が将来どうなるかを表したもの。問題はこの中央である。
所得代替率は、夫が40年間会社員で、妻はその間、専業主婦という夫婦の場合で示している。中央の見通しは経済環境によって異なり、「経済成長と労働参加が進む」ケースでは、基礎年金部分の所得代替率は19年度の36.4%から46年の26.5%へと現在より約3割減る。「経済成長と労働参加が一定程度進む」というやや悲観的なケースでは減少率はさらに大きく、約4割減ることになる(共に複数試算の一つ)。
マクロ経済スライドで基礎年金が大きく減るのは、「04年改革当時、想定しなかった事態が起きたため」(厚労省のある幹部)だ。この仕組みには、デフレなどで物価や賃金が下落するか、伸びが低い場合は年金抑制が全く実施されないか、減額分がわずかになるルールがある。このため、17年間で発動されたのは3回のみ。年金の給付水準は想定よりはるかに高止まりする結果になったのだ。
それでも厚生年金は、保険料と給付額が、加入者である会社員の報酬(賃金)に比例して動く仕組みになっているため、調整は進みやすかった。しかし、基礎年金側は、給付額が加入期間などによる差を除いて基本的に定額であるため、調整が遅れた。
この結果、基礎年金の方が厚生年金より当初想定に比べて過剰給付状態となり、マクロ経済スライドで長期間にわたり抑制しないといけなくなったのだ。現状のままでは、厚生年金は25年には抑制を終えられるが、基礎年金は46年までかかることになったのである(標準的と見られるケースの場合)。
給付抑制の期間が長くなるということは、それだけ削減が大きくなることを意味する。基礎年金が大きく削減される原因はここにある。
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