高齢者間で大きな貯蓄格差
所得以上に大きな問題になろうとしているのが資産格差の拡大だ。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、貯蓄がゼロから300万円の低貯蓄層は、19年に男性単身者で45.7%、女性は37.9%に達し、夫婦世帯でも24%もあった。この比率は07年以降だけ見ても、女性は少し下がったが、他はほとんど変わらない。
その一方、1000万円以上の高貯蓄層は男性単身者が07年の18.5%から19年には26%に、女性単身者は同じく20.9%が25.7%へ。夫婦世帯も38.9%から41.3%に拡大していた。金融資産は明らかに二極化しているのである。
この間、「高所得の高齢者が増えたわけではない」(岡田豊・みずほリサーチ&テクノロジーズ上席主任研究員)。むしろ年収500万円以上の中・高所得層は、男性単身者では1999年の15.9%から2019年には6%、女性は2.3%が1.9%へ、夫婦世帯も23.5%が23%と減っている。
駒沢大学の田中聡一郎・准教授が同じ調査を基に1985年から2015年までの間の高所得層、中間層、低所得層の規模(人口割合)の推移を独自の方法で推計したところ、00年以降では中間層は59.4%から56.9%へ2.5ポイント、高所得層も4.5ポイント減少し、低所得層が7ポイント増えていたという。全体で所得層の“低下”が進んでいるのである。となれば、現役時代から老後に備えた生活防衛的に貯蓄をする層が拡大しているのかもしれない。
「老後2000万円問題」。金融庁が19年6月、老後の備えに2000万円必要と試算した報告書をまとめたところ、「年金だけでは暮らせないということか」と強い反発を受けた。当時の麻生太郎金融相が報告書を受け取らないという事態にまで問題は広がり、年金への懸念や老後への不安を示す象徴的な出来事となった。
これも含めて見渡してみれば、岩盤のように厚い低所得層を抱える高齢者は、老後に備えた貯蓄など金融資産の多寡で生活に格差が生まれつつあるということなのだろう。その不安は、徐々に下の世代にも広がっている。
(続く)
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