ネコを見ていると、働く気にならなくていい

養老:居心地の悪いところから立ち去る。資質に合わない努力はしない。このあいだ話した坂口恭平さん(前回「なぜ『他人が自分をどう思うか』を気に病むのか?」参照)が、うつ病にならないための指針としてそう書いています(*)。ネコみたいに生きられればいいんですけどね。大人がある程度自足していれば、子どもにぶつかることはないと思います。

* 『躁鬱大学』(新潮社)

そもそも大人が満足していないことも問題であると。

養老:親と子の口論の末に自殺するなんて話も聞きましたが、本来ならどこかで折り合いをつけなきゃいけないはずです。お互いのせいにしないで。

私が正しい、あなたは間違っているということで、けんかになる。ここにも「自己」が絡んできそうですね。

養老:そういうときには世の中のせいにしたほうがいいと思いますよ。人間関係は難しいから。距離が近過ぎるんでしょうね。

そこに例えばですけど、ネコみたいな「自然」が入ってくると、ちょっとは変わりそうでしょうか。単純過ぎる解決策かもしれませんが。

養老:そこまでひどいけんかに、ならないかもしれませんね。ネコを見ていると、「なんで自分はこんなに必死になっているんだ」と思えるから。少なくともペットを飼っているほうが血圧は低いという研究はありますよね。

 僕も、まる(*)が死んでから忙しくなっちゃったんですよ。まるを見ていたら働く気がしなかったのに。

* まる:養老先生と暮らしていた雄のスコティッシュ・フォールド。顔がまるいから「まる」

急に働く気に。

養老:まるがいなくなって、ブレーキが利かなくなっちゃったんです。

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2022.5.27更新

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