人間の相手ばかりしているから、死にたくなる

先生は、都市や情報化社会に代表される「脳の世界」と、自然や感覚に代表される「身体の世界」を比較して論じていらっしゃいますが、私たちにとって今、大事なのは「身体の世界」にいる時間を確保することなのですね。子どもが本来、「身体の世界」に属するものだとすると、五感をフルに働かせ、身体を使って何かをすることは、子どもの自殺を防ぐうえで助けになる気がします。

養老:僕らの頃は小学校だともう、1週間の半分ぐらいは川で遊んでましたよ、魚を捕って。それが高学年で虫捕りになっただけで。つまり、人の相手じゃなくて自然を相手にして、十分遊んでいられたんです。今はそれがなくなって、子どもの世界が半分になっちゃった。子どもたちの相手をするのが、先生とか親とか友達とか、人間ばかりになっちゃったんです。若い人にとって、「みんなで何かをする」ことは喜びではあるのですが、それにしても人といる時間が多すぎるんですよ。

 なぜならそれが、自殺にも関連してくるからです。坂口恭平さんという人がいて、「いのっちの電話」というのをやっているんです。自分の携帯電話の番号を公開して、死にたい人であれば誰でもかけられるようにしています。『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)という自分の本にも、自分の携帯電話の番号を載せている。電話がかかってきたら話して、電話に出られなかったときはかけ直している。そうやって2万人くらいの死にたい人の話を聞いてきた坂口さんは、人の苦労というのはすべて他人との関わり合いのなかにあるとしています。

 だからね、子どもの時代からそういう苦労を負わせる必要、僕はないと思う。

今の子どもは、人間の相手ばかりをしているから、「他人が自分をどう思うか」を気にする時間が長い。常に他人の評価、特に大人の評価にさらされっぱなしということになるんですね。

養老:人生の半分ぐらいは、人以外のものと付き合ったらいいんじゃないのかと思います。

先生が解剖学に向かわれたのも、そのためですか?

養老:そうです。解剖もそうだし、虫もそうです。

解剖の検体は「ものいう人」ではないですもんね。虫もそうでしたか。

養老:人以外のものと付き合う時間を増やしていくことが大切なんです。

都会に住んでいるなら、親が積極的に自然に触れる機会をつくっていかないといけないですね。

養老:そうですね。ただ都会の人はわりと意識的なんです。近ごろは田舎が便利になっちゃったから、むしろ今ではそのほうが問題になっています。文部科学省の統計を調べれば、田舎の子のほうが太っている。

車での移動が多いから。

養老:だから、都会と田舎を行き来したほうがいいんですよ。

(次回に続く)

この記事はシリーズ「養老孟司と「死にたがる脳」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。