解剖学者の養老孟司先生の「子どもが自殺するような社会でいいのか」という問題提起からスタートした本連載。なぜ今、子どもたちは死にたくなってしまうのか。社会をどう変えていけばいいのか。課題を一つずつ、ひもといていきます。

 「脳化社会」とも呼ぶべき、今の情報化社会において、子どもがノイズ扱いされている。そればかりか、大人であっても生身の人間が排除されていくことを、前々回(なぜコロナ禍で子どもたちは死にたがるのか?)、前回(なぜ「本人」がいても「本人確認」するのか?)と指摘した養老先生。今回は、日本人が明治維新以来抱えているストレスとして「自己の問題」を取り上げます。子どもの自殺と自己の問題が、どう結びつくのでしょうか。

(取材・構成/黒坂真由子)

この連載の第1回 (なぜコロナ禍で子どもたちは死にたがるのか?)冒頭で、「なぜ今、子どもの自殺が増えているか」を尋ねたところ、「理由は多分、一つじゃない」と養老先生はおっしゃいました。その後の議論から、情報化社会において、子どもが「ノイズ扱い」をされているということが、理由の1つとして浮かび上がりました。ほかには、どのようなことが考えられますか。

養老孟司氏(以下、養老):結局、日本という国は、明治維新以来のストレスを、今も抱えているのです。

明治維新のストレス、ですか。

養老孟司(ようろう・たけし)
養老孟司(ようろう・たけし)
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。81年、東京大学医学部教授に就任し、95年退官。『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞受賞)、『唯脳論』(ちくま学芸文庫)、『バカの壁』(新潮新書)など著書多数。大の虫好き。

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