「子どもの自殺について語り合いたい」 ―― 解剖学者の養老孟司先生による問題提起から、この連載はスタートしました。

 「私たちは、子どもたちが幸せになれる社会をつくれるのか。統計上、子どもの自殺は増えており、私たちの社会は今、子どもが死にたいと思うような社会になっている。子どもが死にたがる社会でいいのか。なぜ、子どもが死にたくなるような社会になってしまったのか、何をどう変えるべきなのか。この問題について語り合いたい」ーー取材・構成を担当したのは、日経ビジネス電子版で「もっと教えて! 『発達障害のリアル』」を担当する、フリーランスの黒坂真由子。

 子どもの自殺を起点に、脳化社会(情報化社会)や近代日本人の自我の問題など、議論すべきトピックは多岐にわたります。子どもの自殺は、現代社会のひずみの象徴でもあります。一緒に考えてみませんか。

なぜ今、子どもの自殺が増えているのでしょうか?

養老孟司氏(以下、養老):理由は多分、一つじゃないですね。結構、厄介な問題だと思います。しかし、そもそも答えを簡単に出せるような問題というのは、大した問題じゃないんです。いろいろなことが関係しています。ですからこの場を使って、一つひとつひもといていきましょう。

統計を確認します。昨年の10月に発表された文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(※1)」によると、小中高生の自殺は2008年度から増加基調にあり、令和2年度(2020年度)は415人で調査開始以降、最多。前年度に比べ30%ほど、約100人の増加となりました。

 自殺の統計はほかにもあり、警察庁のデータでは同時期500人を超えた人数が示されています(※2)。このような統計データに表れる数字が氷山の一角であると考えると、自殺にまでは至らなかったものの、困難な状況にある子どもが多くいることが考えられます。

 自殺が大きく増えた2020年度というのは、コロナ禍で全国一斉休校となった時期と重なります。学校に行かず家にいる間に、多くの子どもたちが、自らの命を絶つ決断をした。このことについて、どうお考えになりますか?

※1.学校が把握し、計上した数字が「年度」で集計されている。
※2.警察庁における令和3年1〜3月の数値は暫定値。

養老:まず、家庭が「生きる」ということに対して、寄与していない。子どもが元気に生きる、幸せに生きるということに対してですね。

<span class="fontBold">養老孟司(ようろう・たけし)</span><br />1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。81年、東京大学医学部教授に就任し、95年退官。『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞受賞)、『唯脳論』(ちくま学芸文庫)、『バカの壁』(新潮新書)など著書多数。大の虫好き。
養老孟司(ようろう・たけし)
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。81年、東京大学医学部教授に就任し、95年退官。『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞受賞)、『唯脳論』(ちくま学芸文庫)、『バカの壁』(新潮新書)など著書多数。大の虫好き。

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