会社の重要な意思決定に、すでに経営上の指揮命令系統から外れた長老の顧問が強く関与する組織がある。今回は、こうしたケースのコンプライアンス問題を考えてみよう。
(写真:123RF)
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 顧問には経験から得られた知見があり、それらを活用できるメリットも大きい。しかしながら、すでに指揮命令をする権限がないにもかかわらず、その意向が実質的に会社の意思決定に直結してしまうような場合、そこに法的な問題はないのだろうか?

 以下は同期の課長2人の会話である。

佐藤 聞いた? あの案件、最終的にはITO工業にこれまで通り継続発注することになったらしいよ。

田中 ま、まさか。品質、安定供給力、価格、アフターサービス……、評価表を作った際にはどの項目もよくて3番手。ほとんどが下位グループで、高評価のついた項目はなかったよ。さすがにもうITO工業はダメだから、他の会社に発注をしようということで話はまとまっていたはずだ。

佐藤 そうだろう。なのに、なんでITO工業に戻っちゃうの?

田中 事業部の幹部会までは、鈴木産業だったよね。中村事業部長も鈴木産業に変えると言っていたし。

佐藤 うん。ほぼ拮抗していた2番手が高橋コーポレーション。だから鈴木産業か高橋コーポレーションになるのならともかく、ここでITO工業に戻るとは……。

田中 幹部会の後に何かがあったわけだな。いったい何がある?

佐藤 経営会議。この件は常務会や取締役会まで上がるほどの金額の案件ではないから、経営会議でひっくり返ったというわけだ。

田中 供給先を変える際のトラブルの可能性でも指摘されたかな?

佐藤 たしかにそれはあるかもしれないけども、製品の特性上それほど大きな問題は起こりようがないんだけどね。

田中 うん。それに経営会議って、かなり形式的だよね。取締役とか他の事業部の事業部長がこの件にそれほど干渉してくるとも思えないし。

佐藤 そうだよなぁ。あっ、そういえば、この事業が始まったときの担当役員は誰だっけ?

田中 小林さんだよ。元専務で現顧問の。

佐藤 あ、それだ! 中村事業部長が小林顧問のところにお伺いにいったんじゃないか?

田中 お伺いというと?

佐藤 供給元をITO工業から鈴木産業に変えますけど、よろしいですね、と。

田中 なんで、小林顧問にそんなことを報告して承諾を得ないといけないわけ?

佐藤 まあ、なんというか、うちのしきたりというか。老害というか。

田中 ……

佐藤 小林顧問はきっと一緒に事業を立ち上げたITO工業とは同志的なつながりがあるし、そのときの恩もあるから、供給元の変更には強く反対するだろう。

田中 たしかに。ただITO工業さんも昔はよかったけれども、2代目社長に代替わりして以降、今ではいろんな意味で競合に劣っているし、もう随分稼がせてあげたはずだから、もう切ってもよいでしょ。

佐藤 ……と、われわれは思うんだけどなあ。おっと、まてよ。小林顧問ってITO工業の顧問もしているような気がするぞ。以前、そんな話を聞いたことがある。

田中 ……ググってみると。たしかに、業界のイベントに出たときの肩書にITO工業顧問とあるぞ。

佐藤 もしそうなら、利益相反じゃないか? これはコンプラ問題だ!

田中 まあ、ちょっと待って。ここまでの話はぜんぶ想像の話だからね。

佐藤 そうだった……。でも、ITO工業に決まった経緯はちょっと調べないといけないな。うちのお客さんのことを考えると供給元は何が何でも変更しないと……。

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