上司から違法な販促活動を命じられたら…
本件の佐藤店長のように「過去に同様のキャンペーンを実施したときは何の問題もなかったから、今回もやっていいのでは?」という発言も、また現場でよく見られる。これは問題行為の正当化の手法の一つなのだが、これもまたかなり危険である。
というのは、ビジネスのあらゆる領域において、法令違反を行わないことの重要性は、過去よりもずっと大きくなっているからだ。さらに、これもまた重要なことなのだが、SNS(交流サイト)などの発展によって現場の問題行為が、映像や音声付きの状態であっと言う間に多くの人達に伝達され、大きな話題になること(いわゆる炎上)が、格段に増加しているのである。
したがって、過去に同様のことをして問題にならなかったからといって、今回も問題にならないかどうかは極めて怪しい。SNSで炎上して皆が知るところになれば、消費者庁も動くし、それ以前の問題として企業イメージに大きなダメージを与える。
本ケースのような成長企業の場合、社会的な地位が短期間に大きく変わる。数年前の問題行動は見逃されたかもしれないが、現在は社会問題化する可能性が高まっていることも十分に認識しておかなくてはならない。意外に内部の人は、この変化に鈍感であり、社会からの注目度を見誤って失敗することは多い。
では最後に、皆さんがもしこのケースの田中さんの立場になったと想定して、どうすればよいかを考えておきたい。このままだと、自分はやりたくなかったが、店長の指示に従わざるを得なかったという理由で「会員になれば、全商品半額」のチラシを作る担当者になってしまう。これでは、ビジネスキャリアの側面でも、精神衛生上もあなたにとって良くない結果になってしまう。
違法行為の片棒をかつぐのが嫌であれば、“念のため”という名目で、このプロモーションを統括する本部の担当者に問い合わせるのがよいだろう。まともな会社の本部であれば、「会員になれば全商品半額なんて何が何でも止めてくれ! そんなことをしたら、とんでもないことになる!」と言われるはずだ。そして別のアイデアを教えてくれるだろう。
しかし、もし、あなたの会社がまともではなく、担当者もはっきりとノーと言わなければ、次には“もう一度、念のため”法務部に問い合わせてほしい。さすがにきちんとした対応を教えてくれるはずだ。
もし、本部も法務部も明確にノーと言ってくれない場合は、すぐに転職活動をした方がよいだろう。2022年の現段階で、上記のようなコンプライアンス体制しかとれていない会社には、明るい未来はないからだ。
※監修 浅見隆行弁護士(アサミ経営法律事務所)
[Human Capital Online 2022年3月14日掲載]情報は掲載時点のものです。
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