今回のコロナ禍の影響で利益が目標に届かないという企業も少なくないだろう。こんなときに、翌期に「お返し」の発注を約束した上で、下請け企業に立て替えてもらうことを考える人がいるかもしれない。今回は下請法の観点から、こうしたケースのコンプライアンス問題を考えてみよう。
(写真:123RF)
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 つい先ごろのこと、期末を控えて同様の問題が持ち上がっていた企業もあったかもしれない。

 X事業部は目標を達成できないと2期連続の目標未達成になる。事業部長もきっと左遷されてしまうだろう。それだけでなく、管理職のボーナスも減るだろうし、昇格する人員数も大幅に減らされることは必至だ。どうにかしなければならない。売り上げ目標の方はどうにかなりそうなのだけども、問題は利益だ。期中に新型コロナウイルス対応のイレギュラーな出費があり、このままでは明らかに目標を下回る。

 そこで、事業部内の主要な管理職が集まり対策会議が行われることになった。以下は、その会議でのやり取りだ。

佐藤営業部長 申し訳ないです。2%程度の売り上げ増は可能ですが、それが限界です。あと、どのくらい営業利益が必要なのですか?

田中企画課長 3000万円です。

佐藤 ということは、うちが2%増やしても、あと1000万円くらい足りないということですね。

鈴木管理部長 1000万くらい、購買の方でどうにかならないのか?

山田購買課長 と申されましても、もうすでに今期内の発注は全部確定させてますから。消耗品の発注を来期に延ばすくらいが精一杯です。

鈴木 それでいくら稼げる?

山田 100万円くらいです。

鈴木 話にならん。どうにか良い方法はないのか? このままだと、うちの事業部はお取りつぶしにあうかもしれんぞ。みんな、別の事業部に左遷されてしまう。

田中 こういうときは、やっぱり話のわかるニコニコ物産に頼むんじゃないか。

佐藤 頼むって、何を頼むんですか?

田中 決まってるでしょ。3月までの納入予定の商材を1000万円ほど値引きしてもらう。

山田 田中課長、何をおっしゃいます。もうすでに正式発注済みで発注書も発行してます。ニコニコさんには落ち度もないし、会社規模も小さいので今からの減額は下請法違反になりかねません。

佐藤 山田課長、ニコニコさんからの購買金額はいくらですか?

山田 3月までに5000万円あります。

全員 おおっ。それなら……。

山田 しかし、本社部門の購買や経理には確実にばれますよ。ニコニコさんに3月に納入してもらう商材は特殊なものではありませんし、ニコニコさんは真面目な会社ですからね。ここで減額したら明らかに不自然です。

田中 じゃあ、ほかの会社でこっちの状況を理解して動いてくれそうなところはある?

全員 ……。

田中 では、やっぱりニコニコさんにお願いするしかない。これを承諾してくれたら、他社の分を回して来期の発注を倍増させよう。トータルでみたらニコニコさんの利益額はだいぶん大きくなるはずだ。利息付きの立て替えだと思ってもらおう。本社の方には、うまいこと言って、どうにか言い逃れるしかない。

山田 鈴木部長、どうします。ほんとにこれで行きますか? 私としては、できればこのようなことはしたくありませんが、部長のご指示に従います。

鈴木 ……ちょっと考えさせてくれ。

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