よからぬ輩への対処法とは?

 一般的に考えられる方法としては、内部通報窓口への通報、外部の通報窓口(通常は弁護士事務所)への通報、監査役への通報などがある。これらは普通のまともな会社であれば、現在はかなり機能する。ちゃんとやってくれる。しかしながら、よからぬ輩に乗っ取られた会社であれば、まず機能しない。握りつぶされるか、犯人捜しをされて弾圧されるのがオチだ。しかも、先述したように、意思決定に際し、形式的にしっかりと審議を経た体裁を整えている可能性は極めて高いし、特別背任罪(会社法960条)に問えそうな私的なリベートの証拠等でもない限り、その気になったとしても会社としては問題化することさえできないだろう。

 次の策としては、株主代表訴訟というものがある。これは、役員の意思決定や行動等により会社に対して損害を与えたにもかかわらず、会社がその責任を追及しない場合、株主が所定の手続きを経たうえで会社に代わって、その会社役員の責任を追及する訴訟を提起できる制度である。これに勝訴すれば、役員等に対して損害額を株式会社に支払うことを要求できる(自分=株主に支払ってもらうものではない)。ただ、この場合も、役員が経営原則にのっとって意思決定した形式を整えていれば、簡単には勝訴できないし、そもそも個人(あなたが株主であったとして)が訴訟をするとなると手間も費用も大変なので、普通は不可能な手段である。

 監督官庁への告発という方法もある。これは、公益通報者保護制度に基づいており、法令違反行為を通報したからといって解雇等の不利益を被ることはないことから使える方法ではある。例えば、過去に大手自動車会社のリコール隠しの情報が、内部者から監督官庁への通報によって寄せられたことで発覚したが、これは監督官庁に業法に基づく監督権限があり、かつ情報が具体的で、真実の相当性が高いと認定されたからこそ、素早く動けたのである。監督権限の範囲内の事象であり、確たる情報の提示が必要であり、そのうえ、公益通報者保護法によって保護される通報の内容は限定されていて、これまた、そう簡単に機能するものではない。

 次なる手段としては、(内部通報では不利益を被る可能性が極めて高い、または隠滅されると考えられることを前提に)マスコミ等に情報提供すると言う方法がある。ただし、これもそう簡単には機能しない。マスコミには、日々さまざまなタレコミが寄せられている。その中から、ニュース性があり、社会的インパクトが大きく、かつ真実である可能性が高いものだけが取材対象として選ばれるのである。普通の会社でよからぬ役員が少々私腹を肥やしているくらいの話では動いてくれることもない。

 最終手段としては、怪文書の送付という方法もある。取引銀行や納入先に怪文書を送付し、これらの機関を動かして輩たちの行動を変更させようとするものである。これによって、取引が停止され輩の責任が追及されるといったことを狙っているのだが、このような怪文書も、あちらこちらにあふれており、根も葉もないものが多いので、ほとんど無視される。そもそも取引においてのみ関係している第三者の会社の内政に対して外部の会社が何かを言う筋合いでもない(なお、怪文書でさえ、根拠がそろっていないと業務妨害や名誉毀損の責任を負わされることもある)。

 こんなことで、とても悲しい話なのだが、よからぬ(でかつ賢い)輩に会社が支配されると、一般社員には、なかなか対抗手段がないのである。したがって、個人として取りうる選択肢は3つしかない。(1)毒を食らわば皿までで輩に取り入る、(2)距離をとり、できるだけ関わらない、(3)別の会社に転職する――である。

 当然、(1)はお勧めしない。さらにエスカレーションする問題行為の実行犯の汚名を着せられる可能性が高い。定年間近の年配の人には(2)がいいかもしれない。会社の死にざまを見届けるのも一興だ。ただ、まだ未来がある人(50歳以下)には(3)を強くお勧めする。このような輩はしぶとい。そう簡単に失脚しない。つまらぬ奴らとのつまらぬ戦いに時間を費やしても良いことはなにもない。とにかく、一刻も早く逃げ出すべきだ。権限もないのに責任だけ取る必要はまったくない。

※監修 浅見隆行弁護士(アサミ経営法律事務所)

[Human Capital Online 2021年12月17日掲載]情報は掲載時点のものです。

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