本件のコンプライアンス的問題とは?

 自分の会社が、ろくでもない輩に乗っ取られることなどないと皆が思っている。しかし起こりうる。取締役になるのに別に資格がいるわけではないし、公的資格があるからといってまともな人とは限らない。正式な手続きを経て、株主から選任されてさえしまえば誰でも取締役にはなれるのだ。実質的には会社の株の過半を持つオーナーと呼ばれる人が、こいつに任せるといってしまえば、それで決まりなのだ。

 では、とんでもない輩が取締役になって、会社に損害を与えた場合は、何か対処法があるのだろうか。

 法的にいえば、取締役は会社に対し、善管注意義務・忠実義務を負っている。そこで、その取締役が会社に損害を与える意思決定をしたのであれば、会社に対して、その損害を賠償する責任を負うことになる(会社法423条)。しかしながら、取締役の業務執行はもともとリスクがある。真面目にやってもすべてが成功するわけではない。そのため、取締役には経営判断については広く裁量が認められており、以下の経営判断の原則にのっとって業務執行が行われた場合には、会社に損害が生じたとしても、取締役は責任を負わないのである。その経営判断原則は以下の通りだ。

(1)意思決定の前提となる事実の認識過程(情報収集及びその分析・検討の過程)に不注意な誤りがなかったか

(2)事実認識に基づく意思決定の過程及び内容に著しく不合理な点がなかったか

 この2点である。ただ、これらは形式的に対処できる。明らかな違法行為は論外だが、事実っぽい情報をそれらしく集め、それっぽく分析し、適当な評価基準をでっちあげ、適当な第三者機関に適当な意見書などを書いてもらい、それを利用して社内規定にしたがった会議体において議論し、適切に意思決定をしたという形式さえ残せば、ほとんどの意思決定が正当化できるのである。調達専門会社(実はトンネル会社)を使って一括購入することで管理コストが下がるとか、新しい調達先が今度期待できるとか。理由はなんとでもでっち上げられる。しかも、困ったことに、昔ながらの輩とは違って、最近のよからぬ輩には、こういった法的知識やビジネス知識が豊富で、頭脳明晰(めいせき)なインテリがたくさんいるのである。

 「奴らさえ なくなりゃ 会社も楽になる 人の面した ハイエナたちめ」「今日もまた 皆が稼ぎしその金を 奴にとどける この身かなしき」――これらは、その昔、企業に寄生し甘い汁を吸い取っていた総会屋に対して、ある会社の総務部の社員がパソコンに残していた落首である。こういう状況になると本当に悲しい。そして、さらに悲しいことは、こういった輩に対して、社員たちが対抗できるすべが(実質的には)ほとんどないことなのである。

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