
世の中には、ひどい会社が存在する。入社前からひどければ、我慢はできるだろうが、自分の愛する会社がおかしな輩(やから)に支配されて、悪の組織になってしまうようなこともある。以下は、ベテラン社員2人の会話である。
田中 この間、調達先の役員に会ったんだけども、えらく嘆かれてね。
佐藤 もしかしたら、若社長の取り巻きの話?
田中 そう。大幅な値下げを要求され、しかも直接取引せずに、わけのわからないトンネル会社を通せという。ブツはもちろん直接納品で。
佐藤 うちの会社は、そのトンネル会社から買うことになるんだな。その差額がトンネル会社に入る。あいつらの遊興の源だ。
田中 聞いた話では、クルーズ船でお戯れされているとか。
佐藤 派手に遊んでいるらしいね。
田中 「先代社長のころは立派な企業だったのに、先代は子育てを失敗されましたね。もう少し長生きしてほしかった」と調達先の役員は言っていた。
佐藤 若社長は、結局一度もビジネスの現場を体験することもなく、箔をつけるために大学院に行って、得たのは筋の悪い友達だけだった。さらには、よせばいいのに、そいつらをうちの会社の役員にしてしまうんだから、もうどうしようもない。
田中 そして、我々のようなうるさい年寄りは遠ざけられる。
佐藤 それにしても、あいつらはやりたい放題だな。ハイエナみたいだ。
田中 いったい何やってるの?
佐藤 ほとんどすべての取引でトンネル会社を使う。さらに個人的なリベートを要求する。豪勢に接待しないと突然取引を止める、ということらしい。
田中 らしい、か。社内人事は明らかに露骨だよね。
佐藤 ちょっとでも異論を挟もうとすると、すぐに左遷だし。一方、取り入る奴はものすごく早く出世する。
田中 若社長はどういうつもりなんだろう。
佐藤 数字しか見てないし、もともとビジネスに興味はない人だからな。芸術家のパトロンとして生きていければよいわけで……。それに、うちの会社もまだそれなりに余裕はある。
田中 でも、こんな状態が長く続けば確実に会社はダメになるよな。
佐藤 優良な取引先は去り、やる気のある社員は去り、過去に培った信用をごまかしながら使って、ほそぼそと生きていくのみだ。
田中 あいつらを追い出す方法はないんだろうか?
佐藤 社内の内部通報窓口は、あいつらの支配下にある。外部の通報窓口もお友達の弁護士のところだ。監査役もまったくあてにならない。
田中 株主も社長一族が過半数をもっているし、あとは古くからの安定株主ばかりだ。
佐藤 マスコミとかに投書してみるか?
田中 投書なんかしても、うちみたいな地味な会社の話は記事にするわけないよ。ネットに何か書き込むか、納入先に怪文書でもばらまくくらいが精一杯だな。
佐藤 ということは、結局、何もできないのか。
田中 老兵は、ただ消え去るのみだ。我々はあと数年、窓際族としてこの会社の死にざまを見守るしかないんだろうね。
佐藤 ……
Powered by リゾーム?