本件のコンプライアンス的問題とは?

 選挙期間中に、このような会話をした人たちはかなりいたと考えられる。実際、選挙に関する社員の活動については、以下のような疑問がよく語られる。

(1)SNS等ネット上で特定の候補の応援などをしてもよいのか?
(2)会社が、社員の政治活動を制限することはできるのか?
(3)勤務時間内での政治活動を制限することはできるか?

 以下、解説していこう。

 まず、選挙に関しては公職選挙法という法律があり、この法律では、選挙の公正、候補者間の平等を確保するため、選挙運動期間中に行われる文書図画の頒布・掲示その他の選挙運動について一定の規制を行っている。インターネット等による情報の伝達も、以前は文書図画の頒布に当たるものとして規制されてきたが、2013年にインターネット等を利用した選挙運動のかなりの行為が解禁された。

 なお、選挙運動とは「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」 である。選挙運動期間とは、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日である(よって当日はNG)。

 上記を前提に、個々の疑問に対しての解答をすると……。

(1)SNS等ネット上で特定の候補の応援などをしてもよいのか?

 2013年以前は、ネット上で特定の候補者の応援はできなかったため、いまだにSNSやネット上で特定候補を応援してはいけないという認識を持っている方が多い。しかし、すでに基本的には解禁されているのである。

 具体的には、ホームページやブログ、TwitterやFacebookなどのいわゆるSNS、YouTubeなどの動画共有サービス、LINEやFacebookのメッセージアプリなどで、選挙の投票依頼をすることは可となっている。一方で、電子メール、SMS(ショートメール)での投票依頼は候補者や政党だけが実施可能で、一般有権者は使ってはいけない。併せて、候補者や政党からのメールを転送することも禁止されている。なぜメッセージアプリはOKで、電子メールやSMSがNGなのか理解に苦しむところはあるが、少なくとも現在はそのようなルールになっている。

(2)会社が、社員の政治活動を制限することはできるのか?

 就業規則において、職場における政治活動を制限することは可能と考えられている。ただし、その制限の範囲は、仕事の邪魔になるような執拗な依頼や、秩序を乱すような行為に限られており、その人の信条や特定の政党への支持などを制限することはできない。上記のケースのように「うちの会社に入った以上、○○先生を応援しろ!」は憲法に記されている思想信条の自由を侵すことになり不適切である。

(3)勤務時間内での政治活動を制限することはできるのか?

 リモートワークなどで時間的裁量が従業員に与えられる状況下では、以前ほど明確に勤務時間内か外かを決められなくなってきてはいるものの、基本的には、勤務時間内においては、従業員は職務に専念する義務があり、その時間帯での政治活動を控えるように指導することはできる。

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