経営戦略を見直すことも必要に

 ただし、これは現実的にはとても難易度が高い。品質偽装に関与した当事者は自分の責任問題になるので当然話したがらない。実際には、自分が主導したのではなく、既にその行為が行われていたのを止められなかっただけなのだが……。さらには、事件のことを詳細に語ると、自組織内の複数の幹部が関与していることから、下手に話すと「裏切り者」になってその場所にいられなくなってしまう。こんなことから、たとえ会社のトップから「正直に話してくれたら懲戒は行わない」と保証されても、問題の公表を躊躇(ちゅうちょ)してしまうのである。

 したがって、1回の調査ですべては把握できない。2回でも把握できない。外部から本格的な調査を入れたとしても全部は発見できないだろう。もし、組織の問題が根深く、3度目、4度目の偽装問題が発覚する蓋然性が感じられ、このままでは会社が危ないといった状況であれば、組織そのものをガラガラポンにして、まったく新しい組織に変えてしまうこと以外に良い方法はない。

 製造に関しては高い専門性が必要なためにそう簡単にはいかないが、それでも、まずは対外的に組織そのものを完全に変えることを宣言した上で、担当役員から主要な管理職のすべてを配置転換し、外部から力のある複数の幹部を採用し、一般社員も計画的に大幅に入れ替えて、まったく違う部署として出直すのである。この過程において、再び過去の問題がいくつか発覚するだろうが、変革を宣言し実行している限りにおいては社会も許容してくれる。

 併せて、会社の経営戦略そのものも見直すべきだ。データ偽装に関する問題も、元はといえば、本当はさして重要とは思えない品質データを、競合との関係上、過大にうたったことによる。すなわち競合と同じ土俵で勝負する同質化競争をしていたことに原因がある。これを競合とは違った土俵に立つ差異化戦略に変えていくこともコンプライアンス経営にとっては重要なことなのである。

(監修) 浅見隆行 弁護士(アサミ経営法律事務所)

[Human Capital Online 2021年8月16日掲載]情報は掲載時点のものです。

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