問題が発覚したら調査、しっかり記録を残す

 さらに大きな問題としては、部長の時にコンプライアンス問題を起こしたのに、役員に昇格した途端にこれまでの仕事のやり方を変え、公明正大に仕事をするようになる人はまずいないということである(注)。こういう人が役員になったあとにコンプライアンス問題が発覚すると、会社の金銭的被害や、報道などによる会社のレピュテーション低下も、部長時代よりずっと大きいものになってしまうのである。

 そんなことから私自身は、かなりのやり手であったとしても、本編の佐藤さんのような人を役員に登用することは控えるべきだと考えている。

 しかし、そう言うと必ず反論を受ける。

 反論の一つは「全くの誤解で何の問題もないかもしれませんよ」であり、もう一つは「嫌になって辞めてしまったらどうすればよいのですか」というものである。

 一つ目の反論は確かにあり得る。他人のぬれぎぬを着せられているケースだ。だからこそ、会社はコンプライアンス問題が起こった場合には、しっかりと調査をして、その結果を報告書として残しておく必要がある。そこで問題がないと判断すれば、自信をもって登用すれば良い。さらには、当人のライバルとみられる人からのやっかみや誹謗(ひぼう)中傷の類に過ぎないケースもある。これらについても、普段から360度評価やコンプライアンス意識調査をしていれば、単なる誹謗中傷か、本当に問題があるのかをかなり正確に捕捉できる。

 二つ目の反論も重要である。その人がいなくなることで会社の業務に大きなマイナスがもたらされるというのは、急成長企業などでは実際にあり得る。一方でそれなりに歴史のある企業の場合は、その人がいないと仕事ができなくなるといったことは考えにくい。コンプライアンス上の問題を疑われている人自身が、「自分がいなければ会社は回らない」という幻想を周囲に抱かせるために、いろいろな手練手管(主には取引先に当人を過剰に褒めさせるような方法)を使っている可能性が高い。さらには配下の有能な人材をスポイルしていることも多いため、短期的には損害を被っても長期的には良くなることのほうが多い。したがって、辞めてもらっても大丈夫である。

 コンプライアンスについては、現場社員の一挙手一投足をルールと手続きでギリギリ絞るよりも、取締役や執行役員といわれる経営幹部をどんな顔ぶれにするかのほうがよほど重要である。人事担当者として、取締役の選定にはなかなか手を出せないかもしれないが、執行役員やその前段階の上級管理職の選定くらいには十分に関与できるはずだ。その意味では、コンプライアンスに関して人事部門が及ぼす影響力は、法務やコンプライアンス担当よりもずっと大きいと私は考えている。

(注)経験上、⾒事に転換した⼈はいるにはいる。役員になった以上、違法すれすれの⾏為を実施することは期待値が低いと考えたようである。

[Human Capital Online 2020年12月10日掲載]情報は掲載時点のものです。

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