役員人事は社員に向けたメッセージ

 極端な例に思われた方もいるかもしれないが、実はよくある話でもある。

 佐藤さんを執行役員にした場合。「実績を上げると評価される」ということが社員に伝わる反面で、少々問題のある行為をしてもバレなければ(証拠をつかまれなければ)評価には影響しない、すなわち「コンプライアンスなんて形だけ」といったメッセージを送る可能性がある。

 一方、佐藤さんが(当然執行役員になるころであろうと思われているにもかかわらず)役員に選任されなければ、「会社はコンプライアンスを重要視している」というポジティブなメッセージを与えることができる。しかし一方で、「実績よりも学歴のほうが重要視される」といった誤ったメッセージが伝わる可能性がある。

 通常、役員などの幹部登用においては、実績評価、能力評価、行動特性評価などに加えて、コンプライアンス問題がないことが重視される。ここでいうコンプライアンス問題の評価にはいくつかの段階がある。

①直近数年間に(上級管理職として)懲戒処分を受けていない
②一度も懲戒処分を受けたことがない
③コンプライアンス案件に直接関わったことがない(懲戒処分の有無にかかわらず)
④コンプライアンス案件に直接的にも間接的にも関わったことがない

 ①でOKとする会社もあれば、④でなければならないと(暗黙的に)決めている会社もある。

 創立間もない成長企業の場合、コンプライアンス要件が昇格の基準に組み入れられていないことも多い。少々問題があっても、大きな違法行為がなく、実績さえ出してくれればそれで良いと考えている会社も実際にある。しかしながら、歴史を経た上場企業ともなると、社会の公器として、経営幹部には高いコンプライアンス意識が求められるようになる。会社法や金融証券取引法においても取締役の義務として内部統制体制を構築することが求められ、それに合わせて執行役員の登用の際にも、コンプライアンス問題の有無もチェックされるようになっている。

 そのようなことで、上記の①~④のような基準が使われているのだが、どれを採用するかについては別に決まりがあるわけではなく、各社が自由に決めてよいし、採用しなくてもよい。しかしながら一般的に言えることは、コンプライアンスに問題のある幹部や管理職の動向は社員の間ではとかく噂になって広がる傾向があり、さらにはその噂は実態以上に膨らんで、会社の内外に悪い評判として流布され定着するということである。

 したがって、悪評のある人が執行役員に登用されたということになれば、会社がいくら「コンプライアンスに力を入れています」と標榜しても、社長が社員に「コンプライアンス経営が大事」などと言っても、全く真剣に受け取ってもらえなくなってしまう。法務部などが一生懸命に取り組んで構築したコンプライアンス体制は、この一つの人事で無駄になってしまうのである。さらに困ったことに、「あれもOKなのだったら…」とその人の行為をまねる人物が出てくる可能性もある。

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