
競合から人材を採用する際に、たびたび起こるコンプライアンス問題。それが、通称「おみやげ問題」と呼ばれるものである。前の会社の秘密の知的資産を「おみやげ」として渡す(渡そうとする)行為のことで、当人、競合、自社を巻き込んだ大きな社会問題となることがある。
以下は、ライン(事業部門)の部長である佐藤さんと、人事部の採用担当課長である田中さんが、競合会社の人材の採用面接をした直後の会話である。
田中 佐藤部長。さっきの面接でのご発言、ちょっとまずいです。
佐藤 あれ、内々定って言ったからですか? 私が判断してよいという話だったでしょ。
田中 その話ではありません。その後に“おみやげ”を期待してるとおっしゃいましたよね。
佐藤 言ったけど、それがどうしたの?
田中 いったい何を期待してます?
佐藤 もちろん、良い情報です。
田中 良い情報とは?
佐藤 それは、彼がいま働いている会社の業務に関するとても重要な情報のことですよ。
田中 それ、求めちゃダメなんです。
佐藤 何をバカなことを言ってるんですか。ライバル会社から人を採用する目的なんか決まってるでしょ。だからこそ、高い給料を払うんですよ。
田中 先方企業の秘密情報を持ち出したら、あの方は法令違反で犯罪者になってしまいます。うちも下手をしたらライバルから損害賠償を請求されます。社会的にも話題になってブランドを大きく毀損します。
佐藤 別に会社の情報を盗んでこいなんていってないし。
田中 「おみやげを期待してる」というのは、会社の秘密情報を持ち出してこいと同義だと解釈される可能性もあります。
佐藤 本社の人はノンキだね。転職のときに前の会社の情報を持ってくるなんて日常茶飯事だし、どこでもやってるし、そのくらいで捕まらないでしょ。ビジネスの厳しさをあなたたちはちっともわかってない。
田中 いえ、すでにいろんなところで違法行為が発覚し、裁判でも負けてますから。
佐藤 じゃあ、ライバル会社から採用したらダメというのか?
田中 そんなことはありません。当人が獲得した個人に固有のスキルやナレッジを当社で使ってもらう分には問題ありません。
佐藤 なんかすっきりしない話だな。おみやげがないのなら、あの人に来てもらわなくてもいいよ。内々定、取り消しにしといて。
田中 佐藤部長、そういうことではなくて……。
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