2022年9月、東証に上場している中堅企業の社長が、既婚者との交際及び妊娠を理由に辞任した。今回は、社員の不倫に関するコンプライアンス問題を考える。
(写真:123RF)
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 これまでも、芸能人の不倫が社会の話題になることはあったが、最近は上場企業の経営者が不倫でその職を辞すようなことが起こっている。不倫に対しては、社会的にもずいぶん厳しい目が向けられるようになってきた。では、この不倫(ここでは、どちらか片方、もしくは両方に配偶者がいるにかかわらず、配偶者以外の異性と肉体関係を持つこと、とする)は、法的、社内的に問題となりうるのか、を考えてみたい。

 以下は、職場に不倫と思しき状況がある田中さんと、田中さんからの依頼で相談にのることになった人事部の佐藤さんの会話である。

佐藤 田中さん、どうされました? 折り入って相談したいとは。

田中 実はここだけの話なのですが……。うちの課長は結婚しているにもかかわらず、自分の部下である高橋さんと不倫をしているんです! こんなことを許してよいのでしょうか。

佐藤 突然でビックリしました。ちょっと整理したいのですが。田中さんの上長はどなたですか?

田中 鈴木課長です。

佐藤 で、その鈴木課長が、田中さんの同僚の高橋さんと不倫をしているということですか?

田中 はい、そうです。私の同期で同じ課の高橋さんと深い関係にあります。もう半年以上、その状況が続いています。

佐藤 ……わかりました。そういった認識を田中さんは持っておられるということですね。では次にお聞きしますが、お二人が不倫関係にあったとして、そのことで何か具体的に困っていることや、業務に支障が出ていることはありますか?

田中 困っていることですか? そうですね。課で会議をしていても、高橋さんの提案はなんでもOKで、私の提案はいつも拒絶されるんです。課員は常に競争させられて人事考課でも差をつけられるのに、これでは高橋さんには絶対勝てない。徹底的にえこひいきされています。

佐藤 なるほど。ほかにありますか?

田中 単純に気持ち悪いです。課長は家庭があるのにこんなことをしてはダメでしょう。そもそも、うちの会社って不倫禁止の前に社内恋愛禁止じゃなかったでしたっけ?

佐藤 それに関しては、そのようなルールは就業規則にはありません。

田中 では、不倫はどうなんですか? 不倫って犯罪でしょ。

佐藤 いいえ。地域によって事情は異なりますが、少なくとも相手が18歳未満の未成年でない限り犯罪にはならないです。

田中 ほんとですか。でも、やってはいけないことですよね。慰謝料を払えといった裁判の判決をよく目にしますけども。

佐藤 あれは、不倫をされたほうの配偶者が、被った精神的苦痛の救済を受けるために、配偶者及び不倫相手に対して慰謝料を請求している民事訴訟です。刑事罰となる犯罪ではありませんし、会社はそこには関与しません。

田中 ということは、会社で不倫をしても良いってことですか?

佐藤 いえいえ、そうまでは言っていませんよ。その不倫関係が、職場の秩序を乱し、会社のブランドや信用等を傷つけたり、または業務の運営が妨げられて、結果的に会社に損害を与えたような場合は、社内的な処分につながることは十分にあります。

田中 あ、なるほど。それで最初に、何か困ったり、支障が出ていることはありますか、と聞かれたわけですね。

佐藤 はい。そうです。とはいっても、そもそも本当に不倫の状況にあるかどうかを証明することも難しいですし、基本的には、不倫はあくまで個人的なことであって、会社とは直接の関係はないというスタンスをとります。

田中 えー。じゃあ、不倫が証明され、かつ明確に困ったことがなければ、お咎めなしですか。そんなことで職場の風紀は守れるんでしょうか? それに、そもそも人間として許されるのでしょうか。

佐藤 人間としてどうか、のところまではわかりませんが、職場の風紀に問題が発生しているのであれば、会社がなんらかの対応をする可能性は出てきますよ。なので、もう少し詳しくお話を聞かせていただきたいと思います。

田中 わかりました。でも、うちの会社って意外と緩いんですね。社員は、もっと「清く正しく美しく」あらねばならないのではないのでしょうか。

佐藤 ……。

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