どのように考えればよいか
口利きというのは、ラクで実入りのいい金儲けの手段に見える。人に人を紹介するだけで手数料が入るのであれば、誰もがやってみたい仕事となるだろう。特に、すでに社会的地位を得た人であれば、意思決定に影響力のある幹部を簡単に紹介することができるので、頼む側にとってその価値は大きい。普通の営業活動では、現場担当者を超えて意思決定の権限を持つ上位者にはなかなか会えないからだ。
よって、口利きを使うことは企業にとって経済的に見ても合理性があり、その人としっかりと契約を締結すれば、手数料やコンサルティング料を払うことも正当化される。日々、現場でアポ取りのために朝から晩まで電話をかけたり、製造現場でコストダウンのために改善活動をしている人から見れば、一回営業に同席したくらいで何百万も払うと聞けばたまったものではないと思うだろうが、経済的に見れば、それなりの価値はあるのだ。
そのようなことから一般のビジネスパーソンが、口利きで儲けたい気持ちになるのは理解できる。また昨今は副業OKとなったことから、その状況を利用し、(1)自分の会社に何かを売りたい他社からの口利きの協力依頼、(2)自分の取引先に対して何かを売り込みたい他社からの口利きの協力依頼――などが現役社員向けに行われることもありえるだろう。
このとき、(1)は受けてしまうと明らかに、いわゆる“賄賂”であり、会社の意思決定に不当に関与することになるので、普通はしないはずだ。しかし、ここまで述べて来たように、別の仕事の依頼を受けた形にして、そこそこ実体があれば、その会社から「バレないし、問題にもならない」などと囁かれると、つい会社に届け出を行うことなく、依頼を受けてしまう危険性がうまれる。普通はあり得ないが、注意をしておくに越したことはない。
一方、(2)は直接的には自分の会社に損害を与えるわけでもないし、きちんと実体さえ作れば、表向き別の副業を実施しているといえるので、会社からのおとがめもないかもしれない。ただ、これに関しては長期的な視点から考えた方がよい。自分の評判をいかに高めるか、維持するか、という視点である。上手に隠したつもりでも、情報は拡散する。取引先や自社にも「○○さんが某社からの依頼をうけて口利きをやって稼いでいる」といった噂が流れるだろう。個人的な信用という観点から見ればマイナスになる可能性がきわめて高い。
基本的に、副業は良いチャンスである。新しい取り組みをしてスキルも増え、人的ネットワークも広がる。そこから独立への道が広がることもありえるだろう。しかしながら、現役の社員が、会社の業務に関係するところで個人の利益を得ようとする“口利きという副業”については、明らかに“やめるべき”といえるだろう。
※監修 浅見隆行弁護士(アサミ経営法律事務所)
[Human Capital Online 2022年11月11日掲載]情報は掲載時点のものです。
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