本ケースのコンプライアンス的問題とは?

 後半で田中さんが述べているように、取引先を別の取引先に紹介することは結果的にあると思われる。その際に、先方の営業担当者から「もし、決まったらいくばくかの謝礼を払う」といった申し出を受けることもあるだろう。そこまでいかずとも、豪勢な接待を受けそうになったことがあった人もいると思う。

 さて、本件だがコンプライアンス的な観点からは以下の3つを考えておいた方がよいと思われる。

  • ポイント1 口利きをして手数料をもらって問題ないか
  • ポイント2 仕事で関係あるお客様を他社に紹介して、紹介料をもらって問題ないか
  • ポイント3 紹介料を他社の口座に振り込んでもらい、その後、その会社から紹介料に相当する額を別の形式でもらって問題ないか
  • ポイント1 口利きをして手数料をもらって問題ないか

 本ケースでは、当社とすでに関係のない鈴木元専務が口利きの手数料を要求してきたわけだが、退任後に紹介をしたのであって、また相手の会社の役員や顧問や雇用契約などがなければ、法律的には問題がない。五輪に関する事件では、口利きをしたと疑われている人が(みなし)公務員であることが問題になっているのである。また、オリンピック組織委員会の理事として意思決定に関与する立場であったことから利益相反を起こしうる状況にあり、それが組織委員会において問題になる可能性はあった。

 本ケースのように民間企業同士の取引であり、鈴木元専務が両組織とは独立した存在であれば、口利きをして紹介手数料をとることに問題はない。紹介手数料をいくら支払うかについて取り決めをして契約書を交わせば、通常の営業活動と同様に処理して終わりである。

  • ポイント2 仕事で関係あるお客様を他社に紹介して、紹介料をもらって問題ないか

 これは、背任(刑法247条)の可能性がある。自己の利益を図る目的で、職務権限を濫用した(任務違背した)可能性があるからである。さらには、多くの会社には副業に関する規程があり、ほとんどの会社の副業規程では、たとえまったく関係のない商品を紹介したときであっても、自社の業務に関係する企業に対して営業先を紹介するといったビジネス行為は許容されない可能性が高い。

 一般的な副業規程は、副業の届け出の義務や会社での業務との切り分けなどが記述されているからである。会社の業務において培った人脈を、現役の立場で自己のビジネスに使うことは公私混同を招くことから許されない可能性が高い。

  • ポイント3 紹介料を他社の口座に振り込んでもらい、その後、その会社から紹介料に相当する額を別の形式でもらって問題ないか

 形式的に見ると、会社(上記の他社に相当)に対して、実体として価値を提供しており、その仕事が副業として会社に認められているのであれば、コンプライアンス的な問題にはならない可能性がある。このようなことから、口利きの手数料は、第三者の会社を迂回した形式で当人に支払われることが多い(何かあったときには、本当は実体がなくても、あったと主張する。その際は、本当に実体があったかどうかが問われ、背任、特別背任、賄賂になるかが判断される)。

 とはいえ、会社の業務に関係した領域でのこういった副業は、取引先企業から自社の誰かにその情報が伝わり、迂回して手数料をもらっていたことがかなりの確率でバレる。そうすると背任行為とみなされ、また副業規程に照らしても懲戒処分を受ける可能性が高まる。

 たとえ、それなりにその会社への価値提供に実体があり会社からの懲戒処分をどうにか免れたとしても、社内的には極めて厳しい立場に追い込まれることになる。さらには取引先からも良くは思われない。そのようなことから、結局、このような行為で紹介料を得ることで得をすることはほとんどない。

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