東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の元理事が、大会スポンサーから賄賂を受け取ったとして逮捕された。元理事が、みなし公務員であったためだ。それでは民間企業同士の場合には、口利きで報酬を受け取ることに問題はないのか。今回は、このコンプライアンス問題を考える。
(写真:123RF)
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 昨今の五輪に関する報道により、口利きで何千万円も儲ける人がいることが明らかになった。意思決定に影響を与えることで、いとも簡単にお財布にお金が入るのである。汗水たらして1円のコストダウンのために日々過ごしている人からは「ズルい」または「羨ましい」といった感覚が沸き起こるに違いない。では、このような口利きは果たしてまっとうなビジネスなのだろうか。

 以下は同期の課長二人の会話である。

佐藤 田中さん、ちょっと相談に乗ってくれる?

田中 何ですか?

佐藤 実はある方に営業先を紹介していただいて、見事に大型受注ができたんだ。

田中 それは良かった。

佐藤 なんだけれども、その人が紹介手数料を払えと言うんだ。

田中 なんと! で、その人って誰?

佐藤 鈴木さん。

田中 鈴木さんって、この間までうちの営業を取り仕切っていた鈴木元専務?

佐藤 そう。今はうちの会社とは何の関係もない。

田中 で、払うの? どのくらい?

佐藤 鈴木元専務は、売り上げの1割を自分の個人会社に振り込めというんだ。

田中 というと?

佐藤 1000万円

田中 ちょっと多くない?

佐藤 そう思うだろ。でも鈴木元専務曰く、自分を通したから相手の会社の社長にいきなり会えて、すぐに社長が意思決定したのだから、それくらい払っても当然だろうと。

田中 それはどうなの?

佐藤 そうとはいえる。

田中 じゃあ、払えばよいのでは?

佐藤 でも最近、オリンピック関係で問題が起こっているだろ。広告代理店のOBが組織委員会の理事になって、その口利きに企業がお金を払って問題になっているケース。

田中 うん。でも、あれは組織委員会の理事がみなし公務員で、しかも意思決定に関与する立場であるからであって、民間企業の取引だったら、口利きで手数料をとっても何の問題もないはず。

佐藤 マジ? 民間企業だったら何の問題もないわけ? だったら、たとえば仕事でお世話になっている中村産業の中村社長を別の取引先に紹介して案件が決まったら、鈴木元専務みたいに、取引先に売り上げの1割を「紹介料として寄こせ!」と言っていいってこと?

田中 うーーん。法律的にはどうなんだろう。それに、うちの副業規程はどうなっているのかな? 普通はダメでしょ。そもそも副業には届け出がいるはずだし。

佐藤 でもさあ、そこはニュースで見たようなやり方で、友人のコンサルティング会社を通した形にしてもらえばよいわけで。

田中 おい佐藤、アホなことは考えないほうがよいぞ。

佐藤 ……。

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