安倍晋三元首相によるコラムの第6回。安倍氏は5月下旬の日米首脳会談と日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の首脳会議について、ロシアのウクライナ侵攻で世界の注目が欧州に移る中、米国がインド太平洋地域重視の姿勢を示し、この地域の重要性を世界が再認識する意義深い機会になったと指摘した。台湾有事に軍事的に関与するとのバイデン米大統領の発言に関しては、失言ではなく明確な意図があったとの見方を示す。

 5月下旬、都内で岸田文雄首相とバイデン米大統領との会談、さらに日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の首脳会議が行われました。

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、インド太平洋地域では軍事・経済両面で周辺国への威圧を強める中国への影響が懸念されています。ロシアによる一方的な現状変更を許せば、それを見た中国が台湾に侵攻するシナリオが現実味を帯びます。台湾有事となれば、沖縄県の尖閣諸島も危機にさらされることになります。

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 こうしたなか行われた日米首脳会談では、東シナ海や南シナ海での中国の一方的な現状変更の試みに強く反対し、日米同盟の抑止力と対処力を早急に強化する方針で一致しました。

 また、岸田首相はバイデン氏に日本の自助努力として防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費について「相当な増額を確保する」と宣言しました。

提唱から日本での開催まで16年を要したクアッド首脳会議

 クアッドは2006年、第1次安倍政権時に私が提唱した枠組みです。インド太平洋地域において、民主主義などの価値観を共有する友好国が中国の覇権主義的な行動を共同で抑える狙いなどから設立されました。

 構想の提唱から日本で首脳会議を開催するまで16年の月日を要しました。日本での開催にこぎ着けた背景には、インド太平洋で中国の軍事的脅威が増大し、一方的な現状変更の試みを行っている状況があります。今回の首脳会議では力による一方的な現状変更をいかなる地域でも許してはならないとの認識を共有し、経済協力の拡大も申し合わせました。

 ロシアのウクライナ侵攻で世界の注目が欧州に移る中、今回の日米首脳会談、クアッド首脳会議はインド太平洋地域の重要性を世界が再認識する意義深い機会になったと思います。

 さらに日米首脳会談において米国がインド太平洋重視の姿勢を世界に発信するとともに、ウクライナ侵攻と同様の事態をこの地域では決して許さないという意思を日米両国で結束して示すことができたことは高く評価できます。

 私はかねて中国への抑止力と対処力を高めるため、まずは防衛費の増額など日本の自助努力を進め、日米同盟を一段と強化し、クアッドなど普遍的価値を共有する国との連携を深め、アジア太平洋地域にコミット(関与)していく国を増やすことが重要だと指摘してきました。

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