安倍晋三元首相によるコラムの第4回。安倍氏はウクライナへの全面侵攻に踏み切ったロシアのプーチン大統領について「力の限界を見極めつつ力の行使をする現実主義者だったはずだ。今回の行動は想定を超えている」と指摘した。ウクライナ危機を受け、日本の防衛力強化や同盟関係の重要性が改めて浮き彫りになったと説く。

 今回はロシアによるウクライナ侵攻を中心に論じたいと思います。

 前回のコラム執筆から数日後、ロシアはウクライナへの全面侵攻を開始しました。ロシア軍の攻撃激化で死傷者や避難民の増加が止まらない中、欧州は安全保障体制の見直しを急ぎ、日本を含む主要7カ国(G7)は国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除などロシアへの経済制裁を強めています。

 築き上げてきた国際秩序は揺らぎ、資源高、穀物高など経済分野にも大きな影響が及んでいます。世界の安全保障と経済を巡る状況はまさに一変しました。

対岸の火事ではないウクライナ危機

 地理的に離れているアジアにとっても、今回のウクライナ危機は決して対岸の火事ではありません。経済的影響は既に現実化していますが、ロシアの力による一方的な現状変更を食い止めることができなければ、アジア太平洋地域にも波及し、中国による台湾への武力行使など安保上の脅威につながりかねないためです。

 3月10~13日の日程で、岸田文雄首相の特使としてマレーシアを訪問しました。日本とマレーシアは国交の樹立から65年で、日本を発展モデルにした東方政策(ルックイースト)を導入してから40年の節目となり、両国のさらなる関係深化を図るためです。

 現地での講演では、ロシアによるウクライナ侵攻に関し「力による一方的な現状変更の試みで、ルールに基づく国際秩序の深刻な脅威だ。ウクライナの影響は欧州にとどまるものではない」と指摘しました。また、中国を念頭に「アジアにおいても力による一方的な現状変更の試みや経済的威圧は日本とマレーシアにとって深刻な脅威だ」と強調しました。

 同国のイスマイルサブリ首相との会談でも、アジアにおいても一方的な現状変更の試みに反対しなければならないとの認識で一致しました。私自身、アジア太平洋地域の平和と安全のために日本がリーダーシップを発揮する必要があると再認識する機会にもなりました。

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