安倍晋三元首相によるコラムの第2回。安倍氏は日本が直面する外交・安全保障上の最大の課題として台頭する中国への対応を挙げた。半導体などのサプライチェーン(供給網)の強化を含む経済安全保障推進の重要性も説く。

 今回は外交・安全保障上の焦点について指摘したいと思います。

 日本にとって、今世紀に入ってからの最大の課題は経済、軍事の両面で台頭する中国にどう対応していくかに尽きると言えます。

 2月から北京冬季五輪・パラリンピックが開催されます。政府は閣僚など政府代表団の派遣の見送りを決めました。「外交ボイコット」という言葉こそ使っていませんが、事実上その選択をしたということです。

 ただ、こうした選択をすれば終わりということではいけません。中国により新疆ウイグル自治区やチベット、香港で人権が抑圧されている状況の中で五輪が開催されることへの問題意識を強く持ち、抗議のメッセージを発信し続ける必要があります。特に日本は主要7カ国(G7)で唯一のアジアの国です。日本こそその責任を果たしていくべきでしょう。

(写真:竹井 俊晴)
(写真:竹井 俊晴)

 さらに、台湾に対する中国の軍事的威圧の強まりで日本の安全保障上の懸念が高まっています。そのことへの対応を進めなければなりません。

 中国は2021年、台湾の防空識別圏に延べ約1000機の中国軍機を送り込みました。台湾有事となれば、沖縄県の尖閣諸島も危機にさらされます。抑止力の向上とともに、国際社会が結束して中国に現状変更の試みを止めるよう警告し、中国が見誤らないようにする必要があります。

中国が見誤らないようにする

 歴史を振り返りますと、一方の国が相手国の意図を見誤り、誤解や相互不信が増幅して軍事的危機が高まり、時に武力行使にまで発展する事態になってしまうものです。

 その一例が1962年の「キューバ危機」でしょう。旧ソ連は米国の裏庭とされたキューバに核搭載可能な弾道ミサイルを配備し、米国は対抗措置としてキューバ海上の封鎖を発動し、米ソは核戦争の一歩手前まで至ったのです。

 その前年に当時のケネディ米大統領とソ連のフルシチョフ首相がウィーンで会談を行っています。双方がお互いを知るための会談でしたが、フルシチョフがケネディについて与しやすいと思い込み、自国の安全確保のためにはあらゆる手段を取る用意があるとのケネディの本意を見誤った結果、一線を越えた軍備強化に動き、核戦争の危機に近づいたのではないかとの仮説があります。こうした事態は避けなければなりません。

 また国際的な紛争や衝突がなぜ起きるかと言えば、対立する国の間のバランスが崩れることが要因です。このことはバランスを保つ努力をまず当事者である日本が行うべきだということを物語っています。

 中国はこの30年間で軍事費を約42倍にしました。日本も自らの防衛力を高めるため、第2次安倍政権の発足以降、防衛費を増やしています。2022年度予算案の防衛費は一体編成した21年度補正予算と合わせて初めて6兆円台に乗りました。こうした取り組みを重ねていくことで、インド太平洋地域における多国間の安全保障協力の強化を各国に働きかけることが可能となるのです。

 我が国の努力をまず進めるのが第一。そのうえで日米同盟を一段と強化し、さらに私が提唱し、昨年首脳会談が実現した日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」など普遍的な価値観を共有する国との連携を深め、この地域にコミットしていく国を増やす。こうした取り組みをこれからも続けていくことが重要です。

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