今回は「働き方改革」の負の部分をクローズアップする。必要に応じてオフィスの環境を整えたり、制度を見直したりすることは、もちろん大切だろう。社員が過重労働にならないよう配慮するのも重要だ。しかし、一方的な“押し付け”は問題ではないか。皆さんの周りでは、労働時間削減のため「残業せずに早く帰れ!」などと言われることが多くなったりはしていないだろうか?

 オフィス街の一角にあるカフェ。午後6時を過ぎた頃、2人の若手ビジネスパーソンがタブレットを操作している。隠れ自主残業だ。というのも、彼らの職場では「働き方改革」のあおりで残業が禁じられているからだ。

 彼らは顧客のためにも自分たちの成長のためにも、完成度の高い提案書を作成したいと考えていたが、残業はさせてもらえない。外でこっそり残業しようにも、会社のパソコンを使ってしまうと“闇残業”がバレる。そこで仕方なく、個人のタブレットで作業をしているというわけだ。もちろん、上司へは申告していない。

持部高志(もちべ・たかし):時短とか効率アップとか言われるのは分かるけど、課長の「テンプレ(テンプレート)使って型通りにやればいい」っていうのはどうよ? 「最低限の出来で良し」っていうことなんだろうけど、それで提案が通らなかったら意味ないし。

遣木満雄(やるき・みちお):けど課長の言葉通り、既存の提案の焼き直しをしている奴らのほうが評価されてるじゃん。

持部:そうなんだよな。この前なんか、クライアントの業種に合わせて新しい表現を加えただけで「非効率だ」って怒られたぜ。お客さんが自分事としてイメージできるように伝えたほうがいいのにさ……(ため息)。

遣木:最近、定型業務ばっかりで、どれもこれも“やっつけ仕事”になっているよな。面白みもないし、モチベーション下がりまくりだよ。

 2020年の新型コロナウイルス感染拡大を機にテレワークが増えて以降、こうした同僚とのコミュニケーションも減っている。オンラインでのやりとりばかりではちょっとした雑談もしにくいし、相談もしづらい。共通の目的に向かって協働している感覚も薄れてしまう。対話の中からアイデアがひらめくようなこともなくなってきている。先進的なIT企業では、イノベーションが求められる開発部隊はむしろ、出社を義務付けているところもあると聞くが――。

遣木:こんな環境で俺たち、成長できると思うか? もっといろんなことにチャレンジしたいのに、できやしない。今の会社にずっといてもいいのかなって不安に思うよ。

持部:いろいろ教わった伸田さんも辞めちゃったしね。久能(くのう)課長は「年収が下がる会社に転職なんて」ってあきれていたけど、数年後には分からないよな。あの会社、急成長しているし。

遣木:そうそう、伸田さんは社内で唯一のロールモデルだったからショックだよ。

 2人の背後の席で会話を聞いていたインスパイアマン。黙って立ち上がりカフェを出て、オフィス街へと歩いていく。向かった先は、彼らの職場だった。

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