その日の夜、津守課長は夢を見た。

 「権限委譲しなければ」と悩む自分、つまり「ホワイト津守」と、「権限委譲なんてしなくてもいいんだよ」とそそのかす自分である「ブラック津守」がせめぎ合っている夢だ。

ホワイト津守:やっぱ権限委譲していかないとさあ、部下って育たないよなあ。

ブラック津守:え? 別に部下が育たなくたってよくね?

ホワイト津守:でも、それじゃ部署の業績が上がらないじゃん?

ブラック津守:そんなの大丈夫だよ! 自分で成果を出し続ければいいだけの話だろ?

ホワイト津守:そうか! そうだよな。
 

 朝、目覚めた津守課長は「“ブラック路線”でいいじゃないか」という気分になっていた。しかし、そこへインスパイアマンが現れる。

権限委譲には「メリットしかない」!?

インスパイアマン:ちょっと待った! 本当にそれでいいと思っているのか? 

津守課長:え? あ、インスパイアマン!? どうしてこんなところに……。

インスパイアマン:たった1度のフィードバックで落ち込んでいるのか? これまで高く評価されてきた自分が、低評価のフィードバックを受けて「リーダー失格」の烙印(らくいん)を押されたように感じている――。だから、諌山部長に喰(く)ってかかったんだろう。

津守課長:うっ……そ、そんなことないですよ!

(イラスト:平戸三平)
(イラスト:平戸三平)

 強がる津守課長に向け、謎のスプレーを「シューッ」と吹きかけるインスパイアマン。すると、ギラついた高いプライドがみるみるとしぼんでいった。

 どうやら、プライドを“中和する”スプレーだったようだ。

津守課長:実は、そうなんです。今まで悪いフィードバックを受けたことがなかったので、正直なところショックでした。

インスパイアマン:やっぱりそうか。でも、360度フィードバックですべてが高評価、なんて人はいないよ。誰だって強みもあれば、弱みもあるものだ。

津守課長:そうかもしれないですけど私、完璧主義なんですよね(苦笑)。

インスパイアマン:まずはそれを手放すところからだな。そうでないと、権限委譲もうまくいかない。

津守課長:そもそも、権限委譲ってメリットあります? 部下にとってはチャンスになるかもしれないけど、上司にとっては指示やら指導やらで自分の時間も奪われるし、自分がやればその分出せてたはずの、個人としての成果もなくなるわけで……。それってデメリットでしかなくないですか?

インスパイアマン:権限委譲は部下だけでなく、上司や組織にとってもメリットが大きいものだ。権限委譲のメリットを理解できれば、きっと部下に仕事を任せられるようになるはずだ。

【説明しよう】
 権限委譲の最大の目的は、部下に成長の機会を与えることにある。だが、上司や組織にとっても、以下のようなメリットがある。

□部下にとってのメリット
・知識や経験が増え、能力開発につながる
・主体性や自律性、競争力の向上に役立つ
・仕事に対する動機付けや満足度にプラスの効果がある
□上司・組織にとってのメリット
・部下に仕事を任せることで、より重要な仕事に取り組むための時間ができる
・個々のスキルや経験値が上がることで、チーム力の底上げにつながる
・各自が現場で判断できるようになることで、意思決定のスピードが向上する

津守課長:確かにそうですね。だけど、どうやればいいんですかね? 仕事の教え方っていうのもよく分からないし。

インスパイアマン:「指導」しようと思うと、細かく指示を出したり、管理したくなったりしてしまうから、「支援」すると思ってみてはどうだろう。

津守課長:指導ではなく、支援?

インスパイアマン: そうだ。例えば、仕事を任せる前には委譲できる仕事とできない仕事を整理したうえで、部下の知識やスキル、経験、目標などを考慮して適切だと思う人を選定することが大切だ。

 委譲できる仕事には、「定型業務」「部下が行ったことのある業務と関連したもの」「業務のゴールとプロセスが明確になっているもの」「部下の能力やスキルを伸ばせるもの」などがある。一方、委譲が適切でない仕事には、「経営陣が『マネジャーが行うべき仕事』と考えるような重要な業務(チームや部下の目標設定、動機付けや支援、最終的な意思決定など)」「機密性の高いもの」「不確実な要素が多いもの」「リスクが大きく、任された部下が重圧を感じてしまうもの」などがある。

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