名選手、名監督にあらず。そんな“格言”を聞いたことがある人は多いだろう。実はこれ、ビジネスパーソンにも当てはまるのだ。今回のテーマは、エース社員だった人ほど突き当たりがちな“壁”について。
「360度フィードバック」の結果を受け取った津守(つもり)課長は、ひどく落ち込んでいた。自己評価とは大きくかけ離れ、全体的に低評価だったのだ。
営業部のエースとして常に高い評価を得てきた津守課長にとって、この評価は断じて受け入れ難く、上司の諌山(いさやま)部長に詰め寄った。
津守課長:この評価は納得がいきません。どうしてですか!?
諌山部長:津守くんは確かに、プレーヤーとしては優秀だよ。その実績をかって課長に推したのもこの私だ。ただ……。
津守課長:ただ、なんだっていうんですか?
諌山部長:いや、ただね、管理職になった以上、部下を育てることも大事な仕事だけど、津守くんはプレーヤー意識が抜けていないよね。
津守課長:ゆくゆくは彼らに仕事を任せたいとは思ってますけど、部署の仕事はすべて把握しておきたいし、自分でやったほうが早くて確実なんですよ。任せたところで思うような成果は期待できないし、指示をしてもその通りに動かないし……。
諌山部長:ほら、そういうところだよ。みんながみんな、最初から津守くんのように仕事ができるわけじゃないし、自分で仕事を抱え込んでしまっていては、部下も成長できないだろう。もっと「権限委譲」していくことを考えてほしいんだ。
津守課長:考えてみます……。
【説明しよう】
「権限委譲」とは、上司が部下に仕事と行動を任せることを意味する。業務の遂行に必要な権限は部下に委ねるが、最終的な結果に対する責任は上司が担う。上司が権限委譲することの最大の目的は、部下に成長の機会を与えることにある。津守課長のようにプレーヤーとして優秀だった上司は、権限委譲を苦手とする傾向がある。その理由はさまざまだが、上司側の問題としては主に次の要素が挙げられる。
●時間がない… 自分の仕事が忙しく、任せるべき仕事を部下に説明したり、フォローしたりする余裕がない。そのために「自分でやったほうが早い」「自分でやれば余計な時間を使わずに済む」と考えてしまう。そもそも部下にどの仕事を任せたらいいか、考える余裕がない場合もある。
●「任せるリスク」への抵抗感… 部下の能力に確信が持てず、成果の質に不安があるため、あえてリスクを取りたくない。任せてしまうと、進捗が自分で把握できなくなり、管理が難しくなることを恐れるというケースもある。
●仕事が好きで誇りを持っている… 仕事が好きで誇りを持っているあまり、部下には渡したくないと思っている。
●自分の立場やプライドを守りたい… 仕事を部下に任せることで、自分の権限や威信が失われることに不安がある。部下のほうが結果を出した場合に、自分の立場が危うくなったり、プライドが傷ついたりすることを恐れている。
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