あなたは部下たちと「目標」を共有できているだろうか。チームに沈滞ムードが漂っているとしたら、それは目標設定が不十分だからかもしれない。今回のテーマは、適切な目標設定の仕方。登場するチームは筆者が実際に出会った、“沈滞しきった”ベテランたちがモデルだ。
日経ビジネス電子版の読者の皆さん、こんにちは。IWNC/インスパイアマン代表の生田洋介です。私は日ごろ、様々な企業に対して組織の風土改革や人材開発、チームビルディングなどの支援を行っています。といっても、クライアント企業のリーダーやメンバーたちに何かを教え、ゴールに導いているわけではありません。彼らが自らの経験から学び、自分たちで課題を解決し、ゴールに向かって自走する手助けをしています。
ランニングレースに例えるなら、伴走者、あるいはペースメーカー。時には沿道で声援を送ったり、コーチになって相談に乗ったり激励(インスパイア)したりすることもあります。レースは、自分の足で走ることに価値があります。それでこそ達成感を得ることができ、新たなチャレンジに立ち向かうための効力感を持つことができるからです。
部長や課長といった立場で部下やチームメンバーを率いている皆さんにも、人々を鼓舞しながらゴールの達成を陰で支える人、「インスパイアマン」になっていただきたい。そして、リーダーの皆さんが手取り足取り指導せずとも自発的に行動し、成果を上げていくことができる「自走するチーム」を作り上げてほしいと考えています。
この連載ではそんな思いを込めて、私が組織開発の現場で経験したストーリーを基に、架空のヒーロー「インスパイアマン」とともにリーダーが自走する集団を作るプロセスを“再現”していきます。どうぞ最後までお付き合いください。
よどんだ空気の正体は「目標がない」こと
馬田育三(まだ・いくぞう)さんは54歳。1年後に、役職定年を迎える。
馬田さんはこの年まで肩書とは無縁に過ごしてきた。自分では「ほどほど」に仕事をこなし、「可もなく不可もなく」という会社員生活を送ってきたと思っている。マイホームのローンも完済間近。一人息子は大学を出て、それなりの企業に就職した。
あとはこのまま公私ともに平穏な日々を過ごしていくばかり……のはずだった馬田さんだが、思いがけず課長への昇進辞令を受けた。配属先は、「未来企画推進課」という聞き慣れない組織だった。
「今さら昇進ね……」という戸惑いは残る。それでも異動初日、馬田“新課長”は「とりあえずやってみるか」という「ほどほどに前向き」な気持ちで未来企画推進課に向かった。
馬田:未来企画推進課の課長になった馬田です、よろしくお願いします。
部下A:あぁ、どうも。
部下B:……(軽く会釈をするだけで、すぐにパソコンに向かってしまう)。
課内には5人のメンバーがいたが、皆同様に覇気がなく、よどんだ空気が漂っている。
馬田:ええっと、まずは皆さんの業務について伺えますか? どんな目標を持って、どんなふうに取り組んでいるかとか………。
部下C:うーん、特にこれといった目標はないけど……なあ?
部下D:そもそも、この課の目的自体がよく分かっていないし。
部下E:(自虐的に)ここは役職定年者の寄せ集め部隊だからな。
馬田:……。
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