ジャパネットたかたの創業者、髙田明氏にとって「1回きり5分だけ」のラジオ通販への出演がその後の事業展開のターニングポイントになった。ラジオ通販で長崎から全国展開するまでの歩み、さらに社名が決まるまでの経緯を当時の秘話とともに語る。

ジャパネットたかたを立ち上げてから経営を離れるまでに私はカメラやビデオカメラ、電子辞書、カーナビなどを何百万台という規模で販売してきましたが、その多くは日本製でした。当時は日本の家電メーカーが世界を席巻し、展示会に行くと「Made in Japan」の液晶テレビやプラズマテレビが何十台もずらりと並んでいて壮観でした。
あれだけ販売したカメラやビデオカメラなどは今ではほとんどスマホに置き換わってきており、日本の影はとても薄くなっていると感じます。スマホがこのように普及する前は、ソニーの携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」が世界で脚光を浴び、誰もが憧れる存在だったと思います。しかし、それに続くものを追求する力が日本は少なかった。一方で他国は日本に追いつけ、追い越せと研究を続け、力を付けてきた結果が今につながっていると思います。当時の国内メーカーの高い技術力を知っているだけに、やはり寂しい気持ちになります。
なぜあれほど素晴らしい商品を作っていた日本メーカーがこうなったのか。なぜ時代に対応できなかったのか。どこかに読み違いがあったのか。私は世阿弥の言葉でいうところの「我見(がけん、役者が舞台の上から客を見ている視点)」に走ってしまい、消費者目線が置いてきぼりになってしまったのではないかと思います。ここから立ち直るには企業体制のみの改善ではなく、行政も一緒になって相当な努力をして発想力を磨き、新たなものを生み出すことが必要かもしれません。今世界が注目する「SDGs(持続可能な開発目標)」や「ESG(環境・社会・企業統治)」など人が安心して暮らせるような商品を作り出すような発想は日本人が本来持っている考え方に近いですし、やり方によっていろいろな可能性があると思います。
ではどんな商品がいいのか。ジャパネットたかたでは扱う商品を選ぶとき、その商品が人の生活の中に何をもたらすか、という視点から考えてきました。単純に売れればいいとか、安く手に入るとかではなく、人の生活の喜びとか幸福感という視点に立ち、時代の中で求められているものは何かを選ぶ基準にしてきました。
最近感じるのは、人間は便利さを求めすぎているのではないか、ということです。例えば、物流の競争はコストだけでなく速さもあります。少し前までならば「明日届きます」でよかったのが、今では「今日届きます」「2時間とか1時間で届きます」という競争になっています。しかし、本当に消費者はそこまでを求めているのでしょうか。確かに人間の欲望は限りなく出てきますが、1週間かかったのが明日届きますとなれば、それで十分だと思います。それ以上の競争によって例えば配送の車が多くなれば、二酸化炭素の排出量が増えることにもなります。あまりにも多くを求めすぎるのではなく、「これで足りる」という世界を持っておくことも必要ではないでしょうか。商品が届く間のワクワク感も付加価値の一つにならないですかね。
「1回きり5分だけ」から始まったラジオ通販
さて今回はカメラ店の店舗だけのビジネスを経て、ラジオ通販を始めた頃の話をしたいと思います。きっかけはそれまで店の宣伝で活用させていただいていた地元の長崎放送の方から、「ラジオで商品を紹介してみないか」と言ってもらったことでした。これは面白そうだなと私は1万9800円のカメラを5分間で紹介しました。すると、なんと50台、売り上げにすると100万円ほどが売れました。当時の店舗の売り上げが月300万~400万円ほどだったので、その反響の大きさには大変驚きました。今から30年以上前、私が41歳の頃です。
1回きり5分だけの放送でしたから、私はもっと機会があればもっと販売できるのではないかと考えました。しかし、当時は、ラジオショッピングはお金を出せば放送できるわけではなく、放送枠自体がものすごく少なかったのです。ですので、ラジオ通販の放送枠は長崎でも最初は、1年に2回しかありませんでした。そこで実績を伸ばしていきながら、放送局に「月に1回、年12回お願いできませんか」と交渉し、それが実現すると「1週間に1回くらいできませんか」と自ら営業に回りながら枠を獲得していきました。
長崎である程度放送できるようになると、今度は他の地域でもラジオ通販ができないかと考えました。調べてみると各地にラジオショッピングをやっている店はありましたが、全国をネットワークしている会社はありませんでした。それならば自分がネットワークをつくろうとひらめいたのです。
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