「ドイツ一強」を確かにした「横」の亀裂

 次に「横」の亀裂とは南北対立である。緊縮路線を巡ってギリシャを筆頭とする南欧とドイツの折り合いが悪くなったことは周知の通りであり、多くの説明を要しないだろう。もとより存在した南北の経済格差を増幅させたのが欧州債務危機だった。

 EUの構造上、もともとそうした構図にはあったが、債務危機を経てドイツはますます債権者然とするようになった。お金を「貸す側」と「借りる側」では当然、発言力に格差が生まれる。欧州債務危機の最中、メルケル首相は南欧救済に慎重な姿勢を貫き、「マダム・ノン(ノーと言う女)」の異名まで取るようになった。それは南欧を中心とする加盟国がドイツをどう思っているかを端的に示すものであり、まさに「横」の亀裂を象徴する言いまわしだ。また、危機の影響を受けてもともと割安だった単一通貨ユーロはさらに弱くなり、それがドイツ経済の追い風となった。

 こうしてみると、欧州債務危機はドイツが債権者として政治的発言力を強化し、一段と割安な通貨を獲得する契機になったと考えられ、メルケル政権の長寿を理解する上では必要不可欠なパーツであったように思える。

 欧州債務危機では南欧以外のEU加盟国の経済も大きく傷つき、EU史上、極めて重大なショックだったと考えられるが、ドイツだけは盤石さを保った結果、「ドイツ一強」の構図が鮮明になった。この点は基礎的経済指標の整理を含めて連載第2回で議論したい。いずれにせよ「横」の亀裂と引き換えに、メルケル政権下のドイツは政治・経済的に力強さを増したと筆者は理解している。

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