「スタートアップが育たず、産業の新陳代謝が進まない」──。

 日本の経済成長が停滞している要因の決まり文句だ。そんな状況を変えるきっかけとなるかもしれない。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの日本上陸は、関係者にそんな期待を抱かせる「名刺代わりの一発」だった。

 2021年10月、日本第1号となったのは製薬スタートアップ、アキュリスファーマ(神奈川県藤沢市)。ビジョン・ファンドなど6社からの調達額は68億円に上った。

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 情報サービスのイニシャル(東京・港)によれば、20年に資金調達したスタートアップの平均調達額は約3億円。設立1年に満たないアーリーステージ(創業初期)企業としては異例の金額だ。スタートアップ支援を手掛ける投資銀行幹部は「(ビジョン・ファンドは)世界各地で非上場投資のゲームを変えた。日本もそうなる」と予想する。

 ビジョン・ファンド上陸がスタートアップへの投資環境を一変させた前例はいくつもある。

 例えばインド。「近い将来、世界の中心になる」と孫正義氏が予見したのは約10年前。ネット環境は未整備で投資家も敬遠する市場だったが、孫氏はむしろアクセルを踏んだ。他の投資家を巻き込み、モバイル広告のインモビやネット通販のスナップディール、配車サービスのオラなど次々と大規模投資に踏み切っていく。

 それに刺激を受け、各国の有力な投資家やIT関連企業がインドに注目し始め、資金調達のたびに投資規模のケタが上がっていく。前回「PayPayの源流はインドに 現地で見つけた『Yahoo!BB方式』」で見たペイティーエムなど、そのときにまいた種が今まさに実を結ぼうとしている。これは、東南アジアでも似たような構図だ。

 日本はどうか。国内のベンチャーキャピタル(VC)にとっては、ビジョン・ファンドの参入は強力なライバルの出現を意味する。有望なスタートアップにはVCからの人気が集中し、評価額が上がりやすくなる。

 国内のスタートアップによる資金調達額は、新型コロナウイルス感染症がまん延した20年を除けば右肩上がりで推移し、19年には5522億円に達した。セコイア・キャピタルやカーライルなど外資系の国内VC参入も相次いでいる。ビジョン・ファンドの参入を追い風に、「22年には1兆円に到達する可能性が高い」(アキュリスに共同出資した独立系VC、ANRIの佐俣アンリ代表パートナー)との声が出始めている。

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