ソフトバンクグループの会長兼社長、孫正義氏の夜は遅い。大企業の首脳にありがちな会食のせいではない。自宅に戻った孫氏が向かうのは、オンライン会議システム「Zoom」の画面。ミーティングの相手は、世界中の起業家だ。

 起業家は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドから出資を引き出すために、自社の技術や事業モデルをアピールできる。プレゼンテーションに与えられた時間はわずか10分だ。

 次は孫氏のターン。「あなたは世界をどう変えようとしているのか」「このビジネスはどれだけスケールするのか」「リスクをどう考えているのか」……。当該企業を発掘・提案したファンドマネジャーが見守るなか、矢継ぎ早の質問が飛ぶ。

毎日2~3社と「真剣勝負」

 ミーティングは30分で終了し、出資にゴーサインを出すかどうかの決を孫氏が下す。初めての出資だけではなく、追加出資のケースでもこうした機会が設けられるという。

孫正義氏は連日連夜、世界中の起業家との「真剣勝負」を繰り広げている。(写真:アフロ)
孫正義氏は連日連夜、世界中の起業家との「真剣勝負」を繰り広げている。(写真:アフロ)

 「判断を間違えると数百億円を失う。まさに真剣勝負」。孫氏がそう語る起業家たちとの「30分1本勝負」は、時差の関係で日本時間の深夜や早朝にセッティングされることが多い。毎日2~3社はこなすという孫氏は「大ぼらかもしれないが、実に痛快。夜中だけど興奮してくる」と笑う。

 2017年のビジョン・ファンド始動から4年半。21年9月末時点で出資先は約400社と、半年で144社増えた。営業日ベースで1日1社以上という驚異的なペースだ。

 米調査会社クランチベースによると、21年7~9月、ビジョン・ファンドがリード投資家を務めた出資案件の合計額は166億ドル(約1兆8900億円)。2位の米タイガー・グローバル・マネジメントの2倍以上で、世界の主要ベンチャーキャピタル(VC)を圧倒する。

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 投資する地域や業種の多様化を進めており、候補となる企業の数は増え続ける。効率的なプロセスなくして膨大な案件は処理できない。それでもビジョン・ファンドの運営責任者、ソフトバンクGのラジーブ・ミスラ副社長は「(孫氏や自身への)プレゼンテーションを重視するようになった」と明かす。

 「孫ソフトバンク」といえば、英ボーダフォン日本法人買収による携帯電話事業への参入や英アームの巨額買収が象徴する、孫氏の動物的な嗅覚と行動力に頼った「ワンマンショー」のイメージが強い。

 だが今や、実態は異なる。冒頭の30分ミーティングも、数ある投資決定プロセスの途中の1ステップにすぎない。では一体、どのように決まっているのか。

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この記事はシリーズ「孫正義の「資本論」 巨大ファンドの内側」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。