「まだ1合目。始まったばかりだ」──。

 浜離宮を見下ろすソフトバンクグループ本社ビル高層階で、孫正義会長兼社長はこう語り始めた。自ら心血を注ぐユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)投資の達成度を聞かれてのことだ。

「資本家として、お金ではなく未来をつくる」。日経ビジネスの単独インタビューで、孫氏はこう語った(写真:村田和聡)
「資本家として、お金ではなく未来をつくる」。日経ビジネスの単独インタビューで、孫氏はこう語った(写真:村田和聡)

 世界にユニコーン企業とその予備軍は約3000社。このうち約400社に、ソフトバンクG傘下の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」などが出資する。2021年3月期、ソフトバンクGは日本の上場企業として史上最大の約5兆円の純利益をたたき出し、「本業」と位置づけるユニコーン投資はいよいよ軌道に乗ったかにみえた。しかし今、同社はかつてないほどの逆風の最中にある。

 「実質は大赤字。一大事だ」(孫氏)。21年4~9月期決算で3636億円の純利益を確保したが、投資会社としての「成績表」であるNAV(ネット・アセット・バリュー、株式など保有資産から負債を除いた評価額)は3カ月で6兆円減った。

 保有する中国・アリババ集団の株価は1年で半分に下落、6月末にニューヨーク証券取引所に上場した中国配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)も株価が6割下落した。米中対立の先鋭化により、高度なプログラミング技術や重要な個人情報を囲い込もうと中国当局がIT大手に規制をかけているとされ、成長性への不透明感が強まっている。

 世界の分断の余波はそれだけではない。20年9月、ソフトバンクGは傘下の英半導体設計大手アームを米半導体大手エヌビディアに売却することで合意したが、米連邦取引委員会(FTC)が21年12月に入り、売却を阻止するため提訴。欧州委員会も本格調査に入っている。エヌビディアが強くなりすぎれば半導体産業全体の競争が阻害されるとの懸念からだ。売却で見込んでいた3兆~4兆円の利益の実現が遠のく。

株価は半値に

 21年の春先に1万円あったソフトバンクGの株価は足元で半値の5000円台に沈む。売上高のほとんどを占める通信子会社ソフトバンクや英アームの業績は堅調そのもの。それでも株価が低迷するのは、これらの実業よりも、投資こそが本業だと金融市場はみていることを示す。英アームの売却で得られるはずの資金を逃せば、次なるユニコーン投資の足かせになるとの懸念もある。

 マクロ視点でみれば、インフレ退治のために米当局が進める金融緩和の正常化も逆風だ。カネ余りが縮小すれば「上場によって一段と価値が高まる」というユニコーン投資の必勝方程式が成り立たなくなる可能性も否定できない。

 実際、21年12月に上場したばかりのシンガポールのスーパーアプリ「グラブ」の株価は安値圏で推移。20年度の業績拡大に寄与した韓国ネット通販大手クーパン株も21年3月の上場直後の高値から4割下落した。市場の一部には、破綻した英フィンテックのグリーンシル・キャピタルや米建設テックのカテラを念頭に、ソフトバンクGの「選別眼」の力量を疑問視する向きがなお残る。

 振り返れば、孫氏、そしてソフトバンクの歴史はアップダウンの連続だ。ITバブル崩壊による株価急落、英ボーダフォンの日本法人買収による携帯通信事業への参入、米携帯通信大手スプリント買収……。

 日本の産業界にとって前例のない大胆な決断は資金繰りのリスクと隣り合わせ。外野は常に、事業の継続性や危機をささやく。だが、そのたびに乗り越えてきたのも事実だ。

 孫氏は自らが目指す姿を「投資家でなく資本家」と表現する。今回の逆風は米中対立という外的要因が発端とはいえ、市場環境に大きく左右される「投資会社」の宿命とも言える。この荒波を乗り越え、「300年続く会社」の基礎をどう固めようとしているのか。

 次回から、ソフトバンクGおよびビジョン・ファンドの知られざる実態を、幹部の証言を基に追う。

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