医療行為自体が変わる可能性もある。どのようなサービスに注目していますか?

 医師としては、エビデンスをしっかりと出しているサービスに注目しています。日本の厚生労働省と同じような機関として、米国にはFDA(米食品医薬品局)があり、安全性や有効性を審査していますが、スウェーデンの月経管理アプリ「Natural Cycles」は、FDAに避妊アプリとして認可されました。

 月経周期や排卵周期をアプリで把握し、データ化することで、ユーザーの月経周期を把握し避妊可能な時期を見極めるというものです。

 本来、私たち医師は、特定の時期は妊娠しないだろうという「避妊期間」や「安全日」というものに頼る避妊法は、妊娠しない保証がないため推奨していません。きちんとした避妊を行う必要があると主張しています。

 しかし、FDA認証を経て、90%台後半という高精度で避妊ができると示されたデータがあり、その期間も正しく分かるなら、新たな避妊法として活用できるかもしれない。それはとても画期的なことです。

エビデンスでいうと、公的な機関での認可には時間がかかります。スタートアップなどは、時間的な余裕や体力がないことも多いですよね。

 承認まで5年以上かかることも多いのが現状です。フェムテックではありませんが、国内のスタートアップで、最も高いレベルで認可まで進めた一例がニコチン依存症治療アプリや高血圧治療アプリなどを手がけているCureAppです。彼らのプロダクトは、治療用アプリとして日本で初めて保険適用されました。

 彼らも5年以上かけ、出資を受けながら膨大なデータを基にエビデンスを積み上げ、承認につなげました。おそらくこの形が一番高いレベルでの承認です。ですが、各社がこれを目指すとは限らないですし、サービス内容によっては、ここまでのレベルは必要ないかもしれません。

 ただ、自分たちが提供しているサービスが健康に直結するという認識を持ち、それを売っていく意思があるならば、売りっぱなしではなく、何かしらのデータは示してほしい。効果をうたい、健康課題を解決できるというのであれば、その言葉に対する責任としてデータを示し続ける必要があります。

 今後、医師がフェムテック業界に造詣を深めれば深めるほど、「エビデンスはどうなっているの?」と危惧する場面が増えるでしょう。

 極端な話、医療業界でフェムテックサービスを起点とした問題が多発すると、専門学会や医学界が、何かしらの規制をかけようと働きかける可能性もあります。それはお互いにとって良いことではありません。

 例えば、サービスを始めるときから検証用データを取れるような設計を考えてほしいのです。

検証の設計にあたり、医療関係者と事業会社との連携は進んでいるのでしょうか?

 医師による監修や大学などとの共同研究開発も数年前よりはだいぶ増えてきています。しかし、まだ両者には認識のギャップがあります。

 事業会社側は、お金も時間もかかるため検証は省いたほうが楽だと思ったり、大学や医師側は、研究につながる内容かどうかまだ信用できないから協力を面倒だと感じたりすることもあるでしょう。

 しかし、フェムテック業界の歩みが止まることはないと思っています。今後、医療はフェムテックとは切っても切れない関係になるはずです。

 そうすると、この先、医師もフェムテックを全く知らないままに過ごすことはできない。早くからお互いに学びあう姿勢が大事になります。

自宅でできるような検査キットなども出てきています。医療機関の代わりになっていくこともあるのでしょうか?

 医療機関と同じクオリティーの検査を自分でできるのはいいことだと思いますが、まだその状況にはないと思っています。例えば、病院と同じ精度で診断できるとうたっていても、検体を自分で採取するのと、医師が採取するのとが本当に同じ精度かという疑問もあります。

 医師が検査をするのは、薬を出すのか、入院を勧めるのかといった、次のアクションを決めるためです。検査には費用もかかり、針を刺すなど痛みを伴うこともある。ですが、それが重要な決定の判断材料になるのです。

 だからこそ、簡単な検査で結果が分かっても、次のアクションにつながらなかったり、余計な不安をただ抱えてしまうだけだったりするわけです。自己責任で病院へ行ってねとなると患者の行動が止まってしまいます。

 フェムテックは、医療を補完できるものだと思っています。だからこそ連携が必要です。