女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックだが、今やその言葉が内包する領域は幅広い。

 健康課題だけでなく、生理、更年期、妊娠出産、セクシュアルウェルネス、婦人科疾患、メンタルヘルスなど、女性がたどる人生のあらゆる領域の課題解決が含まれている。

 言葉の定義は様々だが、とりわけ健康課題の解決をうたうプロダクトやサービスが増えていく中で連携が必要になるのは医療機関ではないだろうか。

 女性の健康と向き合う医師は、フェムテックの広がりに何を感じるのか。フェムテックが医療を変える可能性、そして懸念点について、産婦人科専門医の重見大介氏に話を聞いた。

重見大介(しげみ・だいすけ)氏。産婦人科専門医、公衆衛生学修士。Kids Public産婦人科オンライン代表。2010年日本医科大学卒業。現在、東京大学大学院博士課程に在籍しヘルスケアビッグデータを用いた臨床疫学研究に取り組む。また、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」では、インターネットを介して女性が専門家へ気軽に相談できる仕組みづくりに従事している。SNSやYahoo!ニュース個人オーサーとして積極的な医療情報の発信もしている。(写真=菊池くらげ)
重見大介(しげみ・だいすけ)氏。産婦人科専門医、公衆衛生学修士。Kids Public産婦人科オンライン代表。2010年日本医科大学卒業。現在、東京大学大学院博士課程に在籍しヘルスケアビッグデータを用いた臨床疫学研究に取り組む。また、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」では、インターネットを介して女性が専門家へ気軽に相談できる仕組みづくりに従事している。SNSやYahoo!ニュース個人オーサーとして積極的な医療情報の発信もしている。(写真=菊池くらげ)

まず医師としてフェムテックをどのように捉えていますか?

 狭義のフェムテックは、女性の健康課題の解決だと思いますが、現在は女性のQOL(Quality Of Life:生活の質)向上や快適さも含めてフェムテックと呼ばれています。

 私としては、フェムテックは大きく分けると、健康課題を直接解決するものと、不快感を取り除く周辺サービスがあり、そこを切り分けて考える方がいいと思っています。

 健康課題を解決する、健康に直結するとうたうサービスに関しては、本当に効果があるのか、副作用などデメリットはないのか、費用対効果はどうかという、医療と同じ枠組みで考えていく必要があるでしょう。

 一方で、生活を便利にするような「快適さ」に付随するものは、最低限の品質をクリアしていれば使いたい人次第なので分けて考えるようにしています。

フェムテックが医療にもたらす可能性をどのように感じていますか?

 とても期待しています。これまで医療という枠組みではアプローチできなかった部分に、新しいアイデアやテクノロジーでアプローチし、解決できる可能性があると感じているからです。

 例えば、月経周期などバイタルデータの管理。紙などによる原始的な方法による記録の手間を省くだけでなく、今後は各サービスやデータが医療にどうつながっていくのか、期待しています。

 また、症状に対する診断や処置は医療機関の専門分野ですが、受診するほどではなく、不安や疑問について情報収集したいというニーズもあります。このような医療機関にかかる前後をサポートすることもできます。

医療機関で行う処置自体を変えるような可能性もありますか?

 例えば、海外では子宮の入り口をスマートフォンで撮影すると、クラウド上で何万ものデータと見比べ、細胞や組織の採取なしで子宮頸(けい)部の異常を判断できるサービスなどが出てきています。

 通常、子宮頸がんの検査は、細胞診という子宮頸部の表面を擦る検査で子宮頸部に異常があるかどうかをチェックし、異常がありそうな場合は、組織を2~3ミリ採取して顕微鏡で重症度を判断する必要があります。

 しかし、このサービスが高性能ならば、痛い思いをして組織を削られる必要もないですし、組織を採取する際のヒューマンエラーも解消できる可能性があります。これが可能になれば、検査・診断を劇的に変えるかもしれません。