フェムテックがもたらす効果とはどのようなものなのか。女性を取り巻く課題解決と聞くと、当事者でなければ理解し難いと感じないだろうか。

 女性が抱える課題を解決することは、決して女性のためだけのものではない。第1回は、性差研究によるイノベーション創出を目指す概念「ジェンダード・イノベーションズ」について取り上げる。

 フェムテックの広がり、そして健康課題解決において欠かせないのがデータに基づく研究。ジェンダード・イノベーションズとは、2005年より米スタンフォード大学ロンダ・シービンガー博士が提唱した、性差・生物学的な性別(sex)と、社会・文化的に構築された性別(gender)を考慮することで、より質の高い研究、技術革新を目指す概念だ。

 これまで科学技術分野における研究や製品開発の多くは男性を対象として進められてきたが、性差を考慮することでどのようなイノベーションがもたらされるのか。お茶の水女子大学/名古屋大学で研究を続ける佐々木成江准教授に話を聞いた。

<span class="fontBold">佐々木 成江(ささき・なりえ)</span><br>1993年お茶の水女子大学理学部卒。95年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。98年同大学院博士課程修了。博士(理学)。ポスドク、お茶の水女子大学理学部助手、特任講師を経て、07年に名古屋大学男女共同参画室特任准教授。10年に同大学大学院理学研究科生命理学専攻准教授に就任した。19年からは、クロスアポイントメントにてお茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション研究所准教授および学長補佐も兼務。専門は、分子生物学。14年から日本学術会議連携会員。18年、経済産業省 産業構造審議会研究開発・イノベーション小委員会委員。21年、内閣府 男女共同参画会議計画実行・監視専門調査会委員。(写真=的野弘路)
佐々木 成江(ささき・なりえ)
1993年お茶の水女子大学理学部卒。95年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。98年同大学院博士課程修了。博士(理学)。ポスドク、お茶の水女子大学理学部助手、特任講師を経て、07年に名古屋大学男女共同参画室特任准教授。10年に同大学大学院理学研究科生命理学専攻准教授に就任した。19年からは、クロスアポイントメントにてお茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション研究所准教授および学長補佐も兼務。専門は、分子生物学。14年から日本学術会議連携会員。18年、経済産業省 産業構造審議会研究開発・イノベーション小委員会委員。21年、内閣府 男女共同参画会議計画実行・監視専門調査会委員。(写真=的野弘路)

欧米を中心に広がってきた研究分野において性差を考慮するジェンダード・イノベーションズ。どのようなきっかけで広がり始めたのでしょうか?

 私自身、学生時代からメスは性周期などでデータがぶれるため、研究には必ずオスのマウスを使うようにと言われてきました。当たり前のこと過ぎて、恥ずかしながら、私は何の疑問も感じていませんでした。

 しかし、ジェンダード・イノベーションズを知って調べていくと、メスを使わないことでオス側のデータが一般化されやすいという問題が生じており、さらにあらゆる研究で同様のことが起きていました。

 例えば、薬の臨床試験では妊娠や出産への影響を危惧し、女性の被験者が非常に少ない。女性への副作用が見過ごされやすい傾向があります。工学分野でもシートベルト開発では男性のダミー人形だけで検証され、妊婦が考慮されていなかったため交通事故で胎児が流産するリスクが増大していました。

 AI(人工知能)分野では、Google翻訳で「私は外科医です」と入れるとフランス語では男性名詞が使用され、「私は看護師です」と入れると女性名詞が使用されます。AIにもジェンダーバイアスがあります。

 このような偏りを解消するために、様々な研究分野に性差の視点を入れ、違いを知ることが大切なのです。

 平等にするというと、同じに扱わなければならないと感じるかもしれませんが、平等(Equality)のためには公正(Equity)が重要です。違いによる不利益を是正し、公正にしていくことが必要なのです。

海外ではジェンダード・イノベーションズは進んでいるのですか?

 国が主導する政策もありますが、まだ思ったようには進んでおらず、さらに強化した対策を進めようとしています。

 当事者としての使命感もあるためか、性差における研究は女性研究者が実施する割合が高いことが知られています。生殖の分野では男性研究者も多いですが、他分野になると男性研究者は性差に着目しにくいのだと思います。