起業は、お母様の影響もあるとか。

Lily MedTech代表取締役の東志保氏(写真:菊池くらげ)
Lily MedTech代表取締役の東志保氏(写真:菊池くらげ)

東氏:個人的な話になりますが、高校生の時に母親をがんで亡くしています。乳がんではなくて、脳腫瘍(脳のがん)でした。高校1年生の頃、母が「頭が痛い」と言って、だんだん右手が上がらなくなってきたんです。当初は違う病気を疑っていたのですが、誤診でした。「手が動かないし、しびれる。これは脳かもしれない」と。違う病院を受診したらやっぱり脳だった。手術による切除の影響で右半身が不随になってしまいました。

 高校1~2年の時間は母親の看病に費やしました。母親がストレスを感じるとがんが進行してしまうのではないかという不安を常に抱え、家族総出でケアをしていました。脳腫瘍の中でもかなり悪性度の高い、膠芽腫(こうがしゅ)という、現在でも5年生存率が極めて低いがんです。手術して抗がん剤治療も行ったのですが再発し、高校2年生の冬に亡くなりました。

 どれだけ医療が進歩しても無理なものは無理なんだなと感じましたし、私にとっては「家族のあり方」を考えさせられる衝撃的な経験でした。

 創業する少し前に、乳がん遺児をサポートしているNPO団体に話を聞きにいったんです。すると、母を看病していた時のことがフラッシュバックしました。高校生の時は、周りの友達はすごく楽しそうに生活していて、疎外感がありました。同じような世代で母親を亡くしている人は、乳がんが要因であるケースも多い。がんで家族を失った当事者としても、この事業はやったほうがいいと感じたことがターニングポイントになったと思います。

そうした経験が創業を後押しして、自ら資金調達に取り組んだんですね。

東氏:自分が代表取締役になることには結構悩みました。私は留学していて、研究者になろうと思っていたので、民間企業に勤めた経験も3年ぐらいしかないんです。あまりにもお金に触れていないので「社長はさすがに無理でしょ」という感じで、プロの経営者を探していました。

 最初は私よりも企業経験の長い技術者が投資家やVC(ベンチャーキャピタル)と話していましたが、技術の理解度ではなく、この事業に対して一番やる気のある人を社長に、と求められました。そして、それはたぶん私だ、と腹をくくりました。

 弊社のような研究開発系のベンチャーは、多くの開発資金が必要です。しかし、私がいくら「社会課題が」と訴え、市場性を説明しても投資家たち自身が普段の生活で感じている課題でなければ、「マンモグラフィーでいいじゃん」と言われてしまう。

 このままでは調達は難しいと思い、この問題に対して共感してくれる事業会社と組まないと無理だと判断しました。