吸水性や防水性のある布を重ね合わせて1枚の下着として利用できる吸水サニタリーショーツ。フェムテック関連スタートアップでも最も参入の多い領域の一つだ。

 こうした中、ユニクロが2021年9月に発売した「エアリズム 吸水サニタリーショーツ」は世の話題をさらった。5000円前後の商品が多い吸水ショーツ市場で、1990円という低価格を実現したためだ。

 新市場が創出される過程で乗り越えなければならない大きな壁は価格とタッチポイント。全国に店舗網を持つユニクロが低価格で同市場に参入したことで、今後、一気に市場形成が進む可能性が高まっている。

 ユニクロは吸水ショーツにとどまらず、授乳や乳がんなどの術後や介護にも活用できる「前開きインナー」など、女性特有の課題に特化したアイテムを次々と開発している。

 ユニクロが同市場に注力する理由とは。ウィメンズインナー開発担当で、グローバル商品本部ウィメンズMD部長を務める炬口佳乃子(たけのくち・かのこ)氏に話を聞いた。

ユニクロでグローバル商品本部ウィメンズMD部長を務める炬口佳乃子氏(写真=的野弘路)
ユニクロでグローバル商品本部ウィメンズMD部長を務める炬口佳乃子氏(写真=的野弘路)

2021年9月に吸水サニタリーショーツを発売しました。発売までの過程について教えてください。

 日本は吸水ショーツの販売数がまだ少ない市場です。そのため、既に着用体験を持っている人が少ない商品でした。開発にあたり、経験値から蓄積された基準がなかったため、他社の商品を購入して試したり、自分たちの試作品を何回も試着したりというプロセスをしっかり踏む必要がありました。ほかの商品以上に慎重にモニターをお願いしたり、有識者の意見を聞く機会を設けたりしました。

 開発には1年強の期間がかかりました。商品の特性上、モニター期間に1カ月は必要です。通常の商品であれば1~2週間でモニター期間を終えて開発を進める商品もありますが、吸水ショーツは通常商品と比べて手間と時間がかかりました。

 商品に対してどれくらいニーズがあるかといった議論はもちろんありましたが、社内で特に開発に対して反対はありませんでした。吸水ショーツが欧米市場では年々増えていて既にライフウエアとして定着しつつある新しい下着であることをきっちり説明しました。機能面や構造面で特徴を持たせつつも、既存商品のブラジャーとセットアップで着られます。シームレスでフラットな仕様なので、デイリー使用もできる前提にしています。

アンダーウエアは本来大衆向けですが、何かに特化すると購買層が絞られてしまう可能性もあります。あえてそこを狙うことを意識していたのでしょうか。

 ニッチな商品は、ユニクロとして目指す方向性ではないと思っています。多くのお客様に喜んでもらうために、多くの女性が経験されるライフステージの変化に軸足を置いて商品開発をしています。

 例えば、マタニティーウエアについて考えてみると、妊娠期はすべての人が経験するわけではないですが、多くの人が通る道の一つではありますよね。そこでユニクロが役立つために、どんな人にも使いやすいものを、独自の素材を使って価格以上の価値を出せるよう注力しています。

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