「ほめる」とは「上から目線」の行為である

 先ほど、ほめることの問題点は2つあるといいました。もう1つの問題はより重要で「対人関係の構え」の問題です。ほめるというのは、縦の関係性です。上の立場の人が、下の立場の人に下す評価の言葉がほめ言葉です。

 例えば、カウンセリングに小さな子どもが同行してきたとして、親がカウンセリングを受けている間、静かに過ごせたら、「偉かったね」とほめる親御さんがいます。けれど、夫のカウンセリングに同行してきた妻には「偉かったね」とは、ほめないでしょう。それは、子どもと大人を対等に見ていないからで、子どもにしてみれば、「偉かったね」などといわれても、全然、うれしくないでしょう。

つまり「対等の関係」でないから。リーダーと部下は「対等」であるというのが、先生の考えでしたね。そこは、わたしも共感するところです。

 ですが、チームとしての意思決定においては、わたしがリーダーである以上、メンバーには、わたしが決めたことをちゃんと実行してほしいというのが、本音です。下手に対等な関係を保とうとすると、「わたしはこの方針が気に入らないからやらないよ」となってしまって、混乱しがちな気がします。それでも「対等の関係」を貫くべきなのでしょうか。

 ええ。上司と部下は、役割は違えども、人間としては対等であることを前提に対人関係を構築していくべきです。とすれば、叱るのもほめるのも上下の関係ですから、そのような関係を構築するのは好ましいとは思えません。

対等の関係でないから「失敗」を隠蔽する

 部下にしてみれば、上司と「対等の関係である」と確信できたときに初めて、どんなことでも上司に打ち明けられます。失敗したときも隠さずに、これからどうしようかということを、上司に相談できる。逆にいえば、対等の関係でなければ、叱責を受けるのを避けるため、失敗を隠してしまうかもしれない。

ああ、それはわかります。そうやって一人で抱えこんでしまう同僚というのが、職場では一番困るものです。

 そうでしょう?

結果として、上司と部下が「対等」であるほうが、成果は上がりやすいはずであり、したがって「叱る」ことも「ほめる」ことも、やめたほうがいいということなのですね……。

 しかし先生、わたしには依然、「叱らない」「ほめない」というご主張に、得心できるようで、もやっとするところがあります。

(次回に続く)

自信がなくていい。

◆ リーダーになる勇気を得て、創造的で幸せなチームをつくる、たった一つの原則がある。
◆ リーダーとメンバーの関係を「対等」にすることが、すべての課題を解決する。

昇進したけど不安な「わたし」が、
哲学者の「先生」との対話を通して、
戸惑いながらも成長していく――。

◇ なぜ、あの人は「難しい仕事から逃げる」のか?
◇ なぜ、あの人には「責任感がない」のか?
◇ なぜ「リーダーであることがつらい」のか?
◇ なにをしたら「パワハラ」なのか?
◇ なぜ、叱ることも、ほめることもダメなのか?

◆気鋭の起業家3人との対話を収録
◇サイボウズ・青野慶久社長

「本気で死にたかった社長就任1年目に学びを得た」
ユーグレナ・出雲充社長
「我慢しても、部下に怒りが伝わってしまうのです」
カヤック・柳澤大輔CEO
「パワハラ組織のほうが案外、強いのではないですか?」

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この記事はシリーズ「心若きリーダーとの哲学的対話」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。