昇進して課長になったものの不安な「わたし」が、アドラー心理学を研究する哲学者の「先生」に、リーダーとしての悩みを打ち明け、戸惑いながらも、成長していく――。

 本連載では、ベストセラー『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の著者である岸見一郎氏の新刊『叱らない、ほめない、命じない。―あたらしいリーダー論』から、エッセンスを紹介しています。

 同じ失敗を繰り返す若いメンバーがいて困っているという、わたし。それに対して、先生は、その若いメンバーを「信頼」する必要があると説いた。信頼には2つあり、1つは、その若いメンバーには、課題を自分で解決する力があると信じること。もう1つは、その若いメンバーの言動には、よい意図があると信じること。

 しかし、相手に「よい意図」があると信じることが、自分にとっては難しいのだと、わたしはいう……。

※ 以下、太字が「わたし」からの問いかけ、細字が「先生」の返答です。

(構成/小野田鶴)

先生のいう「部下の言動によい意図があると信じる」というのが、どうもわたしには難しいようなのです。部下に何かをいわれるたび、「こういうってことは、わたしのことを信頼していないのかな」と、つい悪い方向にばかり考えてしまうクセがあって、なかなか「よい意図」を信じられないのだと気づきました。

 他人の心を読まなければいいのです。

そうですか……。

 これは誰にでもするアドバイスではなくて、心を読みすぎるタイプの人にだけいうことです。もともと人の気持ちを、少しも考えない人というのも現にいて、そういう人に「他人の心を読まなければいい」とアドバイスしたら、これはもう大変なことになります。

岸見 一郎(きしみ・いちろう)
1956年、京都生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『ほめるのをやめよう』(日経BP)、『幸福の哲学』『人生は苦である、でも死んではいけない』(講談社)、『今ここを生きる勇気』(NHK出版)、『不安の哲学』(祥伝社)、『怒る勇気』(河出書房新社)。訳書に、アルフレッド・アドラー『個人心理学講義』『人生の意味の心理学』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)など多数。

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